「否定はしない」
「他殺ですね?」思い切った。部長の懐に入る。
「自殺に見せかけるのは困難だ」
「自殺と断定しますよ」
「令状が欲しいのか?」
「S市警察の不穏な動きに興味があります」
「……現場に急行してくれ、君の職務を全うして欲しい。これは上司からの命令だ」
「聞こえていますが、聞こえなかったことにします」
「面倒だな」
「お互い様です」
「鈴木はどうした?」
「はぐれました。端末にも出ません」
「飛行船を調べろ」
「部長、ブルー・ウィステリアと事件の関連を知っていますね?」
「……応えられない、これが答えだ」
「私たちは名目上、呼ばれたうわべの捜査員でピエロや操り人形を演じるぐらいなら、命令に背き、無駄に署内のデスクで時間を過ごす。しかし、それは究極の、最後の選択です。どうか真実を」
無言の間。呼吸。
「記憶力に優れた君ならば、聞き込みと盗み聞き、一日のみのネットに撒かれた情報に見え隠れする、事実を引き出すのは訳もなく容易にできてしまえるさ。能力に期待をすればいい、事実は既に明らかになっている」
「……」
「返答がないようなので」
通話が切れた。見落とし、があるというのか。この私に……。取り出し、見直し、組みなおしては修正を施したはずだった、まだ不十分といいたいらしい。まったく、呆れる、そう私に。ふがいない、これほど鈍感だったとは、目も当てられない、見る角度が根本的に異なるんだろうか、不足分を即座に種田はかき集める。必死で、歩きながら、追い越されながら、緩慢にゆったりと柔軟でありたいと願う、かつての子供時代を思い出して。凝り固まった現在を取り払う。頼ってばかりの私に叱咤激励、活を入れた。内部が燃える、火種がくすぶっていたじゃないか。道理で、息が苦しいと思ったんだ。薪をくべる、灰をどける、火種だけを掬い取り、小枝に渡す。火がついた。パチパチ、破裂音。メラメラ、ゆらゆら、もうもう、わふわふ、ゴホゴホ、扉を閉めて窓から観察、よしよし、これで準備は整った。耳を澄ます。
「決まりきった純然たる自戒に則れ」、内部が呼びかけた。
「言われなくても」種田はそっと呟き、交通の途切れる車線を渡った。