コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって6-2

 シンプルな店内、白の内装は建物の品位に合わせている、と伺える。

 微妙にサイズの異なったPCが数台、持ち運びとデスクトップ型が左手の島に、右手は携帯端末に音楽プレイヤー、イヤフォンやヘッドフォンは壁にかかる。二階に続く階段の手すりや支柱はブロンズのようなくすんだ青だ、この距離からも冷たいと知れる。金属の特徴。

「屋上に上がれるそうです」鈴木が戻り、顔を寄せた。彼の肩越しにこちらの動向を窺う店員の鋭い視線を浴びた。余計なことをするな、顔全体が口の役割を代わってしまう、接客の規範とはかけ離れた態度。僕らはお客とは種類が異なるのだから、いいや行列の喪失がもたらした苛立ちをぶつけてしまっているのかも。隠してしまいこんだはずが、呼び水でポンプから吸い出された、とも考えられる。ふつふつと店員の顔に血管が浮き出ていた。

 裏口から外に出た。屋上へは、鈴木が先に梯子を上がる。

 開けた視界、屋上に降り立つ。凛と涼風とはいいがたい、冷気が肌を刺した。水仕事は数日前から気温の低下を水道管を通り、送られる常温の冷たさでひっそり、内緒話を耳打ちするよう、声をそばだてていた。

 手を払って店主は訊いた。「捜査の許可は下りないと踏んでました」

「端末の情報を教えました」手袋を填めた鈴木が言う、店の応対は予測に準じていたようだ、意外にもあっさり彼は言ってのける。「本来、取引きは罪を犯した者に対して発動されるべきですが、なんにせよ今は緊急事態ですし、捜査員の数も僕を含め二人、しかも捜査権はないに等しい。取らざるを得なかった手段だと大目にみてください」