コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-5

 言われたように外に出た。入ってきたときには目に入らなかった情報、記憶を彼女は振り返り、照合した。脳内の容量を圧縮するための取り組みである、こうすることで不確かな映像が処理され、まとまる。思い出し易く、引き出しも楽に行えるのだ。

 ロータリーは坂道に作られた形状で病院の敷地内に立ち入ると傾斜がきつい。視界の詳細な観測を挙げると、正面に病棟がそびえる。縦長というより低層マンション程度の高さに横幅が加わった感じだろうか、外壁は茶色であった。正面の建物、それから私が今出てきた建物も複数の棟の分かれる、左右に続く日よけを越えて、背後を眺めた。不ぞろいなてっぺん、予想は確かだった。日よけ、庇の下に移り、種田はベンチに座った。交通係と目が合った。ロータリーの入り口と向かいの棟を渡る横断歩道の安全のためらしいが、どの程度の効果があるのか、むしろ邪魔にさえなっていると本人は気がついていないのだろう。地域のための貢献、これからは人のために生きるのだ、まったくもってそれは自己主義の塊。では一体、交通係の職務に着くまでなにをして生きたのか、その人生すべてを最初から交通の誘導に捧げればよいのでは?

 離れよう。考えて、答えが出た試しはなかったはずだ。

「もしもし、種田といいます。O署の、はい。実はお願いがあって連絡を差し上げました……」

 小雨が振り出した。話し声を隠す。男性、白衣を着た人物が通りかかった、珍しくここ庇の下は外部に喫煙場所が残されていた、入り口から五メートルほどの位置にホームで見かける水色のベンチに彼は座る。病人に配慮した造りと増設、新設費用に折り合いをつけた、という結果だろうか。

「……よろしくお願いします」私は要求を伝えた。男性が煙草を吸い終わる時間をぼんやりと夕暮れにカラスが喚く鳴き声をバックに、適度な車の鼓動や、向いの棟、その一階の薬局やコンビニ、理髪店に美容室から病人とその家族の生活形態をむ遠慮に想像した。クリーニング店もあった。 

 発信履歴を呼び出して、種田は同じ番号をプッシュした。三回目のコールで音声に変化が生じる、それから二回目のコールで通じた。「はい」落ち着いた声だ。