コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-1

 翌日。交差点に倒れ込む騒動がS市中心部で発生した約十六時間後。店主はブルゾンに手を忍ばせて出勤する、考え事に耽り、歩いていたので、出窓を通じた厨房内の様子は視界に入らず、つま先の茶色い染みはいつついた汚れであるかに意識を集約させていた。

 店を通り過ぎるギリギリに足を止めた。ドアノブに手を掛ける間際、異状さを感知して、動きを止めた。ドアの雰囲気が異なっていた。お客と従業員が帰った静謐な室内とは趣にズレが生じてる、僕の勘が働いた。案の定、ドアの鍵は開いていた。

「おはよう、早いね」

「おはようございます」館山リルカが厨房から出迎える、屈んでいた長身がぐぐっと真上に伸びた。

「まだ六時過ぎだけど、時間を間違えたのではないらしいね」

「昨日、仕込みを結局手付かず。警察が来たおかげで、散々な目にはいましたので、できるだけ店長の出勤時間に合わせたんです」営業後に小川安佐と約束を交わした仕込みの居残りだったが、移転先の責任者、宇木林の連絡を受けて、僕は長時間の遅行を余儀なくされた。よって、ランチのアイディアはまとまることは決してないので、筆談を交わして、二人の従業員は通常より多少引き止めた時間帯で帰したのだった。

「今日はしっかり休憩を取って、明日はきっちり出勤時間に来る、それを約束して欲しい」店主は館山を見据えた。

「……はい。ですか店長、今日は特別……」店主は遮る。

「弁解は聞いていないよ、館山さん。誰のための体で、誰のための料理、ランチであるのか、十二分に理解していた、と僕は君を認識してたようだけれど、噛み砕いた解釈を身に落すにはもう少々時間が必要かもしれないね」店主はロッカーに足を進めた、反論の言葉を聞き入れないためだ。間を作る、すると人は言葉を精査する。話すべきか、つぐむべきかも候補に上がる。そして、どちらかを選ぶ。短時間であればあるほど、選択は目まぐるしく両者を行きかい、長時間であれば、それもまた両者を行きかう、滞在の長さは当然後者に軍配が上がる。