コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 4-1

 

三神は中心街を離れ、タクシーで郊外の美術館に降り立った。うっそうとした森に点在するアート作品は、見てくれる者をそっと待つかのような受身の姿勢をかたくなに守っているようで、じつは美術館へ足を運ばせた行動そのものは彫刻や作品に見るものが惹きつけられたと言える。
 曲がりくねる舗装路をとぼとぼ、濡れた路面に探し物を見つけるように視線は下を向き、つま先の小さい虫を踏みつけない配慮で先へ足を進めた。残されたであろう、大木が作り出した軒下で雨宿りの人物を視界に捉える。
「僕の居場所、誰にも教えてないんですけど」三神は、墓石のような地面に張り付く、石を整形した作品を眺め、話しかけた。相手は、大木の真裏。全容は見ない位置。
「そうね。偶然かもしれない、そうは考えないの?」スカート、フレアのすそが風になびく。黒が溶け込む赤、秋の色。夏に着れば重たい印象を与える。与えるだけでは素材の比重は変わらない、いいや染料によっては比重が異なるのだから、多少の重量さは存在するだろう。
「あのメールを送ったのは、あなたですか?」
「何のこと?メールのやり取りはいつもしているじゃない、何かあった?」
「いいや、別に。あなたがここにいることに驚いているよ」三神は言葉を切り、のどの力を抜くと、低い声で続けた。「誰に聞いた?」
「情報はお金で買える時代よ。誰もがカメラを持っていて、いつでも欲しい情報は集まる。一般的に認められた人たちの気の緩みを私がつなぎ合わせて形にすると、あなたの居場所が知れるの」霧雨が降り始めた。三神は大木に体を寄せる。相手は雨が気にならないらしい、それか雨に好意的な印象を持っているのも、と三神は思う。
「取引ですか?」
「今回はネタの提供じゃないの。なんていうのか、そうね、あなたの時間、行動を私に売って欲しいの」