コンテナガレージ

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私は猫に石を投げるでしょう1-2

運良く、会社に程近い、近いといっても直線距離で二キロほどの場所で、そこへは一年前に移転したのだそうだ。以前は都心のビルを借りていたのであるが、賃料の安さと不便な立地でも患者の来院が見込める判断を病院の舵取り役は判断したのだろう。

 T字路の角、国道に面した激しく車が通り過ぎる。お世辞にも静かな環境ではない場所に広大な敷地をふんだんに利用、駐車場も埋まるどころか、スーパーのそれと同様に満車にならないまでも、安心して停められる環境作りに徹した様子が覗えた。

 私は伊達眼鏡をかけている。眼鏡を外した途端にあれこれといわれたので、自己防衛というやつだ。

 口をあけた歩行者と同様のレーンに自転車を止める。会社に着いたのだ。地下に誘うスロープに続々と出勤の車が吸い込まれる。送迎バスも例外ではない。バスに合わせた出入り口の高さ、つまり地下もそれぐらいに天井が高い、ということがいえる。

 監視カメラに私は顔を向ける。三メートルほどの高さに丸い半球の物体を見つめる。ゲートをくぐって自転車ごと地下に降りる。このビルは一度地下に降りてからではないと、上階のフロアにたどり着けない仕組み。各ゲートはそれぞれの専門分野が取り仕切り、足を踏み入れられるのは担当者の所属が基本原則で、他の階を訪れる際は、カメラなどの認証をエレベーター内で読み取るために階段の利用は緊急時の利用のみ。ただし、出勤を地下から行えば、室内から屋外へは、無税現に自由気まま、悠々自適に通過できてしまえる。

 三階で降りる。一日の始まりは、音楽が手渡される。アナログなCDとポータブルプレイヤーの支給。一日中、丸い円盤の曲を聴かなくてはならない決まりなのだ。他の社員は一喜一憂。お気に入りのアーティストから無名の新人までそれこそ、ジャンルは盛りだくさん、各人の好みに願った曲が配布されるとは限らないのだ。そもそも曲を聴きながら作業ということ自体に私は疑問を抱いている。このシステムがなければ、もっといい職場と評価を下す。だか、社長いわく、アイディアを自らの枠内で考え続ける浅はかな考えは即刻捨てなくてならない、独創的な商品とは得てして過去の名残を完全に消し去った先にあり続ける。君たちがこれから後世に受け継がれるスタンダードを構築するのだ。そのためには、既存の支配を壊す必要がある。ゆえに、一日中、名も知らない歌手の曲を聴き続けることを強要する。もちろん、嫌なら、会社を去れ。飼われているのだ、君たちは。非人道的などとは口が裂けても発言は控えるべき。不満ならば、自らで道を切り開けばいい、そのための資金を現在せっせと稼いでいるのならば、あるいは与えられた仕事量をきっちり守るだけの人生に特化した枠内に留まり、一般的な収入を上回る地位の継続を欲するならば、甘んじて私の強制を受けなさい。