コンテナガレージ

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私は猫に石を投げるでしょう1-8

 最終チェック、私は細部を確認、見落としはないか、短時間の改善の余地はないか、長期ならあっさり捨て去る、残り時間との格闘。短時間の出力に心血を注ぐ。完成だ。

 息を忘れていた。立ち上がったら眩暈が襲う。時刻は午後の七時を過ぎた時間帯、周りのデスクを見渡すと半分以上が帰宅していた。残っているのは、若手が多い。私は冷えた水を飲みに給湯室を訪れて、気分をリフレッシュさせた、仕事のためではなく、帰りの自転車の活力にエンジンをかけるため。

 席に戻って、明日のスケジュールの確認。ここであてがわれた曲とやっと別れ。窓に近づいて雨の様子を眺めた、降ってはいないが、路面は濡れたままだ。帰り支度、バッグから緑のレインコートを取り出して、羽織る。出社の服装はカジュアルなもので、パンツも動き安い素材。お疲れ様と、まるで自分に言っているようだ。返りの薄い挨拶に送り出されて。自転車にまたがり、地上に這い出した。外は雨。フードをかぶる。

 私は何のために自転車を漕いでいるのか、いつもこの問いと出くわす。運動が好きなのでも、ハイになっているのでもない。まして、海外の自転車好きに触発されたのでもない。特殊な専用のウエアなどは一枚も持っていないのだ。自然を求めているということでもない。ここはだって自然である。

 自宅にたどり着くまでの所要時間と私の足でたどり着いた、という結果がほしいのだ。

 今日を殺すための作業には十分に必要な時間、目を閉じて眠るだけでは私は昨日を引きずってしまう、風にゆすられて、私の膜が、はがれやすく、取っ掛かりを体の一部に見つけて、眠る頃には次の私がベッドに迎えられるのだ。

 雨は洗い流してくれる、水と打ちつけるノイズで。