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手紙とは事実を伝えるデバイスである1-1

 六F

 O署の熊田の到着から約六時間後の午後七時二十三分に、S市の鑑識班が到着。彼らは三名の少数で、一人を除き、二名は配属されたばかりの新人であった。S市の内部事情は考えるに、他の現場を優先、無理をかけて捻出した人員がベテラン一名と新人二名の組み合わせとの予測。熊田はエレベーターを降りた地下駐車場で一向を出迎え、六階の社長室に導き、彼らの手技を見守った。捜査範囲は社長室、地続きの二つの会議室、廊下、エレベーター前のトイレ、エレベーター内部、特にボタンを入念に調べ上げた。邪魔にならないよう熊田は隅や端に移動しつつ、結果の報告を待った。死体に係りきりの老練の捜査員が手袋を脱ぎ、傍を離れたのが到着後から二十分弱で時計の針は午後七時をまわりかけていた。

 死亡推定時刻が鑑識から告げられる。新人が証拠品の採取に区切りをつけて、会議室に戻り、室内の静けさにまぎれて追加捜査員を待ちわびる視線を各方向、主に一つ目の会議室のドアに向けて放つが、そちらを意識しても当分応援は来ない、熊田は視線の先をベテランの捜査官に向けた。

「死亡推定時刻だが、午前十一時から十二時の間。頭部の損傷が死因だろう。正確な情報を今すぐに求められても、回答は難しい。もちろん、解剖に回すべき事例はあんたでもわかるはずだ。この死体が室内で殴られたのが解剖の了解を取り付けたといってもいい」

「どうしてですか?」色白で首の長い鑑識の男が叫ぶように質問した。

「どうして、それを考えるのがお前の仕事だ」

「室内で加えられた傷害、事件性を真っ先に疑うべき」きりっとした女性が言葉を返す。こちらも若く、女性特有の肌の白さと透明感が真新しい糊の効いた青い征服に映える。

「屋外だって、事件性には変わりないだろう」

「議論は帰ってからにしてくれ」ベテランが若い鑑識たちの議論をぶった切り、肩を胸を抱えるように軽くもみほぐす。

 熊田は凶器の形状を尋ねた、彼は円柱状の側面が頭部を攻撃したと考えている。

「加えられた衝撃は一度。殺意を抱かずに突発的に放った一撃にも思える。頭部への打撃、事件発生当初は生きており時間の経過と共に死に近づいた。頭部以外の外傷は見られない。倒れた時は顔から床に着地、両手や肘よりも先にだ。意識を失うほど、または咄嗟に受身が取れないぐらいの衝撃を浴びせられた」

「窓際の位置から、凶器を振りかざせるでしょうか?」タクシーを止める要領で手を上げた熊田が訊いた。

「そうだな。難しいといえるが、できないこともないだろう。座った被害者が立ち上がる直後に打撃を与えられれば、実現可能な頭部の破壊」