コンテナガレージ

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店長はアイス 恐怖の源4-2

「海?」
「……船ですか」種田は僅かに開いた肩で浮かぶ船舶を見つめた。
「ええっつ!でも、なんでまた。通報後に姿を消したら疑われますよ」鈴木が主張する。日差しが強い、海面反射でさらに波打ち際は照り返しが強い。熊田はハンカチで汗を拭く。
「記録を残して怖くなって、船で逃げたとは考えにくい。黙って逃げれば遠くへ逃げる時間をより稼げるだろう」
「海に出て行ったのです、待てば戻ってくるでしょう」種田が無表情で言った。
「それと、これがベンチに置いてあったらしい」熊田は帰った捜査員に渡されたビニール袋の入る名刺を種田と鈴木に見せた。食品メーカーの社員で大嶋八郎と名前が印字されている。
「名刺の人物が通報者ですか?」鈴木が聞いた。
「別人だ」熊田が答える。鈴木は眉間に皺を寄せる。もっともな反応だ。熊田も鈴木の胸中に同意を示す。
「この名刺は誰が置いたんでしょう?被害者、ですかね?」
「何者かを落としいれるため」種田が呟いた。まだ、顔は海上に向けられている。
「上から投げれば現場に落ちる」二人は見上げた。そこには野次馬、とくに高齢で暇な人物たちが首を伸ばして熊田たちを景色のように眺めていた。
「そうか、夜だからゴミを投げても下まで見なかったのか。でも、名刺は皺も折り目もなく綺麗ですよ。投げる時に折りたたまなかったのか。案外綺麗好きかも」
「どういう指標だ」熊田が指摘する。「とにかく船の主は戻ってくるなり事情を聞けばいい、先にこの名刺に人物に話を聞く」熊田と鈴木は歩き出した。
 立ち止まったままの種田を熊田が呼ぶ。「何してる、行くぞ」
「はい」海に別れを告げるように見つめた種田の横顔に海風が吹いてカモメが上空で鳴いた。
 熊田たちは名刺の人物大嶋八郎が勤める食品メーカーを訪れた。彼はすぐに姿を見せた。ロビーの一角、テーブルで事情を尋ねた。
「あなたの名刺がある場所に落ちてたのですが、何か心辺りはありませんか?」やんわり、それとなく熊田は話を進めたが、大嶋の口からは意外な答えが返ってきた。
「死体の所ですよぉ。ベンチに座った死体っ!」
「お静かに、声が大きすぎます」人差し指を立てた鈴木が嗜める。
「すいません。会議中も警察の人が来てくれるかどうか気が気でなくて。ああ、でも、私ではないです、殺したのは」
「なぜあなたの名刺が現場にあったのでしょう?」熊田が質問を続ける。
「ええ、それは、おそらくですけど、最初に見つけたのが私で、私は近くにいた男にその名刺を渡したのです。今日は大事な会議がありまして遅れることは許されませんでした。なので、その男から第一発見者である私の名刺を警察に渡して欲しいとお願いしたのですよ。見てみぬふりはできない性分でしてね、厄介ですよこれがまた」
「あなたが最初に発見されたと?」
「はい、私です」
「実はあなたが言う男は現場にはいません」