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店長はアイス 幸福の克服2-3

「だったら、もうつきまとわないでくれますぅ」尖った口元の股代がまとめた資料をバチンとテーブルとコンタクト。
「しかし、あなたは犯人を知ってる」熊田は相手の感情の起伏に飲まれない。淡々とそして堂々と低音で話す。
「おかしいなあ、だってあなた、今、自殺だって言いましたよね。刑事さんたちだって聞いてたでしょう?」鈴木たちに投げかける股代。しかし、刑事たちの反応は悪い。
「ええ、たしかに自殺だとはいいましたが、自殺を手伝った人物の存在が明らかになりました」
「私は何もしていない」
「わかっています、股代さんは紀藤香澄、大嶋八郎の死に関与はしてない。ですが、自殺を手伝った人物とは関連が認められる」
「言いがかりはよしてください。そんな人と私は無関係です。紀藤さんがうちの社員だった、それだけのこと」
「結婚されてますね?奥さんは、自宅ですか?」
 今度は正面から熊田を睨みつける。股代は緊張に続いて威嚇の気配をむき出す。「妻は無関係です」
「関係があるような口ぶりで、否定しますね」
「揚げ足取りだ。これはなんです、事情聴取ですか。任意ならば断れるはず。もうお話しすることはない。帰ってくれ」
「私はこう考えます」熊田はテーブルを歩き回る。ゆったり、両手を後ろで組み大学の教授のように黒板の端から端までを歩くように。「あなたは紀藤香澄さんと関係を持った。それはあなた自身の口から聞きました。おそらくは事実でしょう。紀藤さんの部屋からウェディングドレスが発見された、これはまだ公表されていない、我々警察だけの情報です。彼女はあなたに結婚を迫った、あるいはあなたも結婚に乗り気だった。どちらにしろ、奥さんと別れるつもりだ、と言い含めていた。しかし、あなたは奥さんとの結婚生活に見切りを付けられない。そこで、大嶋八郎の存在を利用しようと目論んだ。大嶋八郎がもしも紀藤香澄に危害を加えれば、彼女は勤務に支障をきたし、休みも増えるでしょう。そして職場で顔をあわせる回数が減少すると、好きという気持ちが目減りしても自然な行為と一応の理由付けにはなる。決して他の社員や奥さんに目移りしたのではないのと、言い切れもする。納得はしないでしょう、紀藤さんは。ここまではわかっていたことですが、しかし、あなたにとって大きな誤算が生じた。紀藤さんは会社を辞めたくはなかったのです。あなたは彼女に気がある大嶋八郎と接触を図り、両思いであることなど、行動がエスカレートするように仕向けました。もちろん、憶測です。死んでしまったのですから、大島さんは口をひらいてはくれません。ただ、紀藤香澄さんの死と大嶋八郎さんの類似性の高い死は無関係とはいいがたいのです。むしろ、関係性を疑います」