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ゆるゆる、ホロホロ4-5

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 犯人を追い詰める警察の、正確には管轄外の二人の刑事の姿が仕事の合間に意識にちらつく。地声よりも接客のときは声が幾分高くなってしまう、喉のケアがそろそろ必要な季節。声が高いからといって親切、丁寧とはいえないのに、大方の人間、お客はこれで満足してくれるんだから、正解なのだろう。一部、敏感な神経の持ち主が存在する、すべて私がそれらのお客の応対を取り仕切る。年代も性別もばらばら。猜疑心満載、思春期の学生からジェントルな紳士まで皆一様に、瞳が綺麗。まん丸の瞳は濡れて光を拡散、見つめられたら吸い込まれそうなのだ。正しいものを信じて止まない。決して人を蔑んだり陰口を叩かない共通性。言葉数も少ないか。しゃべらないのではなくって、しゃべる意味が見出せないから黙っているのだ、と知れたのはこの店の開業から数年経った頃だ。余所見をしてあるお客の耳を切ってしまった。血は流れるままに任せて滴り、制服も汚して台無し。昔の私だったらもっと若かったら泣いてしまうほどの惨劇だった。とにかく血を止めないと、必死だったと思う。けれども、血液は水を得た魚のように一定量を体外へ送り出す、白血球の硬化も追いつかないぐらいに。泣いていただろう、汗かもしれない、何かは頬をつたった。髪の毛と血液と透明な液体。発作が起きる間際だった、お客がにこやかに何事もなく私に言った。
「耳を切られたぐらいで死にはしないし、血はいつか止まります。それよりも制服のシミはたぶん取れないんでしょうね。クリーニングに出したら料金はどれぐらいですかね。換えのシャツはもう一枚を着まわしていて、今日もこのシャツは帰って洗濯をしないと。あれ、店長さん、何か変なこと言ってますか僕」