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水中では動きが鈍る 1-2

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「はあ。三人目の被害者の身元は判明しました?時間からしてそろそろかなと思いましてね」
「女性、推定年齢は20代から30代。身長は160センチ。出産、妊娠はしていない。歯の治療痕から、発見された現場付近の歯医者を調べさせているが、殺害場所が不特定だからまず引っかからないだろう。それに、捜索願との情報の照合も望みは薄いだろうな。前の事件がいかに特別だったが嫌というほど身にしみるよ。わかっているのは、それぐらいだ。ニュースを見た知人からの連絡を待っても限りなくゼロに近い期待だろう」
「エンジンオイルについて、追加の情報は?」
「メーカーの特定はできたが市販もされている。入手経路から犯人を特定するのは難しいだろう」力なく項垂れる種田に神が声をかける。「お嬢さんはお疲れの様子だね」
「……」
「だんまりか」
「例の警官のことはまだ黙っておいてください」食堂内を見回し、囁くように顔を近づけて熊田がいう。
「そいつが犯人じゃあないのか?オイルを撒いたんだろう」自然と神も小声になる。
「あいつは違いますよ」
「泳がしておく意味はあるのか?」片目をつぶり、神が聞く。
「バレてはいないと思っているうちは逃げたり、警察を辞めたりはしませんよ」
「そういうもんかねえ」神の皿からカレーが消えたが、ルーと白米との配分を誤りごちそうさまの一口はほぼ白米だけになってしまった。
 二人は二階へと場所を変える。神とは食事の終わりと会話の終わりが一致し、食後の一服を吸いに神は二階へ一緒に上がる。通路を左に曲がり喫煙室に進路をとり、二人とは別れた。
 種田は整理されたデスクをじっと見つめながら座っている。何も目新しいものはなかった。いや、視界すら種田には必要性がない。脳内は日井田美弥都からのヒントで熊田が犯人へと行き着いたことでいっぱいであった。
 知りたい。
 わかりたい。
 不謹慎だと、言われてもいい。
 解いてみたいのだ。数学の問題を解き明かすあの時のうちからにじみ出す、なんと言えない快感が欲しい。
 パーツは揃っている、あとはそられらの組み合わせだけ。
 何か見落としている?
 いいや、全て熊田と行動を共にしてきたのだから知っているはずである。
 美弥都の最後の言葉。警官が一人で現場に到着したのはおかしい、と言っていた。
 交番勤務の警官は二人一組の行動を義務付けられている。それは、非常時における警察官の行動を証明する要素がその割合の大多数であるからだ。極端な話、拳銃を発砲する事態に遭遇した時の非常事態を、説明可能な人物の配置を予め想定しているのだろう。だが、佐田あさ美によれば警官は一人で現れたと言っている。鈴木が到着した時も私達が到着した時も警官は一人だった。もう一人のいるはずの警官はどこへ行っていたのか?