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ワタシハココニイル1-3

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「お前の疑問は捜査の再開自体ではなく、この部署が捜査を再開したのがおかしいと、そう言いたいのか?」
「まあ、なんとなくですけど」
「単純な考えに、捜査継続のアピールがあります」種田がコートを掛けてから言った。冬季間、雪国の室内での服装は割りと軽装で暖房は節電が叫ばれている時節であっても内部は常に暖められている。一時的な暖房のストップと再起動のエネルギー消費量を鑑みれば、持続運転の方が低コストだ。それを知ってか知らずか、計算をしていないだけか、使用するな、節電をしろなどとやみくもに、使用する個々の暖房器具の特性をないがしろにしてまで一様な対策を押し付ける国の方針に仲良しの警察組織は疑いもなく首を縦に振る。
「誰にアピールをするんだ?あの事件で死んだ奴には身寄りはいなかっただろう」種田の発言に引っかかる相田は言い終わりに欠伸をした。熊田が廊下へと出る。
「捕まえた警備員は大元ではありません」種田は音もなく席についた。相田はブラインドから漏れる明かりに片目をつぶっていた。
「大元って、まだ組織の存在を視野に入れているのか?第一、存在していたとすれば目的は何だ?事件を起こすことか?だったら、世間に自分たちを知ってもらうために声を出して手がかりを残していく」
「知ってほしいとは思っていません」軽く種田は咳をした。「実験です」
「罪を犯してまでも遂行する、意味のあることなのか」
「人が作り上げた縛りです。すべてが正だとは思えません。所詮は個人が決めているのです」どこかで聞いたセリフである。もちろん、種田も発信元は知覚している。ただし、考えに人のもの、自分のものという権利はない、コーヒーを手に席についた熊田はある人物を思い浮かべた。「さっきの続きか?」熊田は二人に聞いた。
「全体を巻き込んだ実験だって種田は言うんです」
「うん」熊田はコーヒーを傾ける。「どちらも正しくてどちらも間違っている、これが最も正しい」
「逃げ腰ですね」種田はボソリと呟く。
「おい!」相田が叱る。目上の人間への配慮に相田は敏感である。育った環境によるものだろうか、熊田はひっそりと考えた。
「そうとられても仕方がないが、種田だって俺が怒らないと踏んで言ったんだ。礼儀を知らないわけじゃない」熊田は部下たちの認識、規則、倫理観の違いを楽しんでいるようにフォローした。
「私にはただ礼儀の知らずのお子様にしか見えませんけどね」