コンテナガレージ

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ワタシハココニイル7-3

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「触井園さんの家はここだけだと思うんですけどね」

「その根拠は」熊田は鈴木に言った。

「下駄箱に大量の靴が入っていました。たまに帰るぐらいなら運動靴とか作業用の長靴とかサンダルを置いておけば、咄嗟の時の間に合わせにはなるし、ましてずっと住んでいるわけじゃないからその場しのぎで事は済んでしまいますよ。なのに、ヒールやらブーツやらをぎっしりと仕舞ってるのはやはりここが住まいなんでしょう」

「うん、可能性がないとはいえないな」熊田は顎をさすりながら答えた。可能性を認められた鈴木は軽くガッツポーズ。

「保管場所ではないでしょうか」今度は種田が反対の意見をぶつける。「家に収まらないからここを倉庫に使っている。カーテンが引かれていないのも、夜を過ごさないという意味では成立します。それからテレビもありません」

「そうかテレビか。だからリビングが殺風景だったのか」熊田が感嘆を漏らす。熊田にとってはテレビがリビングの主役だ。年代を鑑みると当然の捉え方か。部屋にテレビがあっても、情報を取得するツールとしては、ここ最近利用していない。不定期に季節の変わり目に気温の動向を調べるぐらいだ。もう出掛けの天気も車を使用するようなってからは気にもとめない。

「ここが住まいかどうかなんて捜査に関係ありますかね?」台所、シンクの縁を指でトントンと触る鈴木が根本的な質問を投げかけた。

「あるさ。だってお前、家に帰っているのなら行動を見張ることができる。つまり、ここで殺されたのなら計画的だったというわけ」相田がポケットに手を隠す。やはり、寒かったんだろう。

「はあ、皆さんよく考えてるんですね。なんか感心しちゃうな」鈴木が住宅展示場を訪れる建築、購入予定もない冷やかしのお客に見えてならない。

「だったらお前も少しは考える癖をつけろよ」

「血痕は本人のものとみて間違いなのか?」しゃがんだ熊田が言葉を吐いた。

「鑑識の結果待ちです。ただ、神さん曰く、飛沫は意図的に飛び散らせたとのことです。直接体から吹き出したのなら、血が飛ぶ距離は半径1メートルが限界だろうと」相田は生存確認に床の血を避けて死亡者に近づき首元の脈をはかりはしたが、傷の有無は血に隠されて未確認。血は凝固には至らずぽたぽたと滴る液体状であったと語る。現在は若干空気に触れて乾き始めていた。

「おかしいですね。だってもし犯人がいたとして刃物で被害者を刺したら犯人は足跡を付けずにここから立ち去れますか?刺した時はもう血が周りに飛び散っていますよ。座った被害者の前に犯人が立っているなんて思えません、ほら綺麗に血が飛んでます」鈴木の右腕は舞台役者の明日を指し示す未来への希望のようにぴんと伸びた。

「ソファ背後の血は?」上部の半身を後方にひねった熊田は相田を仰ぎ見る。

 相田は現場の状況を思い返すために首を傾けてから答える。「ありませんでしたね」

「窓から出て行ったとしたら血を遮ることもなく犯人は外に出られます。もちろん、殺されたとしたら、ですが」種田が呟いた。ここまで窓の施錠の有無は議論されていなかった。