コンテナガレージ

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ROTATING SKY 2-2

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 明かりが差してきてもビルに隠れて太陽の姿は見えない。冬の北国は室内での生活が自然と時間の大半を占めるから、日の光が差し込むと旧友に会ったみたいな顔を作ってしまう。

 夕方、午後四時を回ったので、まとめた構想をスケッチブックにしたためて店のシャッターを下ろした。昼食も摂らず梱包に使用されたダンボールやクッション材を床に敷いてイメージを書き続けいていた。時間に気がついたのは、外の光が途切れて暗がりができはじめたからである。明るい状態を維持してくれいればおそらくは、アイデアが尽きるまで描き続けてだろうと自分でも思う。

 すっかりコーヒーは冷めて、一気に喉に流しこんだ。ちらついた雪で歩行者の頭は帽子かフードが欠かせない。鍵を閉めて、明日の予定を携帯で確認する。午前中にこの店舗の打ち合わせをスケジュールに保存した。バックアップのためにアナログな手帳にも書き込むことにする。

 温かいコーヒーと食事が欲しくなり、不来はアーケードのファストフード店で一息入れた。店内は総じて明るく、店員の表情も明るい。注文して二階の窓際の席に陣取る。ワインレッドのシートに滑りこんで、やっと自分が疲れていると感じた。集中している時は、まったくもって疲れというもの意識せずに仕事をこなしてしまう。危ないと忠告されもする。集中せずにどうやって仕事をこなしているのかと反対に尋ねると、プライベートや昼食や夕食、機嫌の悪さや空調の温度、話し声など頭に入れつつ仕事をするのだそうだ。そちらのほうが私は器用に思える。俗にいう空気を読むという行為だろうか。

 普段からあまり大人数で仕事をする機会がないのでよく飲み込めない。クライアントや大工との話し合いだって、雑談や生活の話や家族、仕事のことなどはまったく話題に出すべきではないと考えてる。もちろん、クライアントの性格や要望を聞く上では相手の生活を教えてもらう場合もあるが、それは仕事上の通過儀礼で立ち止まって自分の似通った部分と共通性を見出して話は盛り上げない。

 タバコが吸えるか確かめるのを忘れていたが、天井から喫煙可のプレートがぶらさがっていた。しかし、灰皿はダストシュートまで取りに行かなければならず、下ろした腰を上げて灰皿を取り行った。

 スーツの男が一人、コーヒーを持って階段を上がってきた、一瞬目があったがすぐに外された。あんな窮屈な服をいつまで正装だと言いはるのか。

 立ち上る煙が心地いい。手付かずのハンバーガーはまだ紙の包みがそのままで、不来はポテト、コーヒー、タバコを順番で口内を味と煙と液体で汚していた。 

 不来はそれから数時間、二階の窓から下の通り、人の流れを観察し続けた。