コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

ROTATING SKY 4-3

 リビングの血は乾き、フローリングの奥に黒ずんで染み込む。熊田は血の跡を避けてカーテン傍のソファに回り込む。絞殺と刺殺のそれぞれに用いられた道具は現在も発見に至っていない。

「被害者は次の航空券を買っていただろうか」不意に熊田がつぶやいた。リビングを隅から調べていた三人が一様に顔を合わせる。

「いいえ、カードの記録には残っていません。彼女の傾向によれば航空券を空港でそれも搭乗前に購入します」種田がこたえた。

「今回は現金で買おうと思ったのでは?」腰に手を当てた相田が言う。

「家に帰りすぐにまた仕事先や取材先に行くなら行き帰りの時間ぐらいは把握できたはずであるし、家は一晩でも眠れるような清潔な状態ではないのだから、滞在は頭になかった。また、防犯カメラには空港まで車に乗って行き、その車で帰ってきた。全国を飛び回るのに殺される前は車を利用していた。総合すると、本来は車での移動が主だったのではないのかな」熊田は相手を問わず不明瞭に返答した。

「カードは何者かに盗まれたか、勝手に彼女名義で作られてしまっていた……」鈴木が難しい顔でつぶやいた。

「いくら預金に無頓着な奴でもチケット代やホテルの宿泊料金が引かれていたとしたら、残高の減りに気がつく」相田が鈴木のつぶやきに対応した。私も口座の預金は見ない。収支は決まっていて、定額以上は預金を下ろさないのが常だ。財布には一度に引き落としたお金で生活をする。

「うーん、そう、これなんでどうです!」鈴木が思い付きを話す。「カードが彼女名義なんですけど、引き落としは彼女の利用する口座じゃないんです。つまり、名前だけ借りてあたかも彼女が使用していたように見せかけていたんです、彼女名義の別口座でね」

「誰に見せかけるんだ?」

「それは、……犯罪に手を染めて追われているとか、闇の組織に恨まれているとか、いろいろです」

「まったく、よくそんな非現実的なことが言えるな」

「可能性はありますよ」種田も鈴木の意見に一票を投じた。私たちが調べた口座は本来彼女が利用していた口座ではないのかもしれない。そう、まったく別名義の口座を彼女、触井園京子が利用していた可能性もあるのだ。

「どうなっているんだか、若い奴は」相田は肩をすくめた。「カードは航空券の購入に使用されただけで本人、触井園の搭乗は確認できない。だったら誰が乗っていても不審には思わない。誰も乗らなかったら不審に思われるかもしれないがな」

「あの」種田は進言する。「熊田さんは現場で何を調べているのですか?私達にも教えてくださらないと、ここへ足を運んだ意味がありません」

「……この家は本当に彼女が住んでいた家なのか、疑問が湧いた」

「住民票や近隣住民への聴き込みでも被害者がここの住民であることは証明されています。疑う余地なんてありませんよ」鈴木は手を広げてこたえた。

「人の顔なんてはっきりと覚えていないことのほうが多い。刑事なら、それが身にしみてわかっているはずだ。近くの住民が殺されて写真を見せられた所で細かな造作の記憶は流されてしまう。現に、近所とは付き合いもなかったと聞いている」