コンテナガレージ

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飛ぶための羽と存在の掌握3-2

 煙草が半分灰になった。急いで携帯用の灰皿を取り出して慎重に灰を落とした。きれい好きでも環境に気を使っているわけでも、まして罰金の支払いを危惧しているわけでもない。ずっと前からどこでもタバコが吸えるようにと常に携帯してるのだ。他人にどう思われても問題はないので、そんなことは口は出さない。

 若い男が二人、通常よりも大きな声で通過していく。酔いが覚めた朝も同じようにここを歩ける不思議を思って、顔がにやけた。

 白のバンが歩道に寄せて、店の前で停止した。助手席と運転席、後部座席からそれぞれ紺色の作業着に厚手の上着を羽織った作業員が降りきて、助手席の一人がすぐさま不来に頭を下げた。不来は最後に一口を吸って灰皿をしまう。

「申し訳ありません、高速が事故で通れなくて下の道を走ってきたものですから。ずいぶんと待たれたのではないですか、本当に申し訳ありません」時計は予定の時刻から二十分が過ぎていた。

「挨拶はもうよしましょう。それよりも工期の遅れが心配ですので早速作業に取り掛かってもらいたい」手際の良いほかの作業員はテキパキと道具箱や脚立などを下ろして準備に取り掛かっていた。

「作業はきっちりとこなしますので。どうかご容赦ください」

「それはもう終わりましたから、どうか作業を始めてください。そのほうが私としても助かります」

「ああっ、申し訳ありません。なにぶん、現場に遅れたのは初めてなものでして。はい、全力で取り組みます。おい、はじめるぞ」

 おそらく過去に遅刻でトラブルを起こしたのだろうと不来は裏を読んだ。作業工程を復唱して作業が開始された。水回りの配線は漏電を起こしやすい。入念にその点だけは強調し、コンセントの取り付け位置を不来が目視で確認した。それからはしばらく仕事がないので、不来はまたファストフードにコーヒーを買いに行った。外から眺めていた私の姿がガラスに映り自分と目が合うのは室内にはライトのためである。

 ファストフードは早朝まで営業しているため、終電に乗りそこねた人や待ち合わせお客がほとんどで一人でいるのは不来ぐらいである。喫煙場所は混み合い、窓際のカウンターの端が一席空いていたので、そこへ腰を掛けた。自然と、溜息と疲れが入り乱れた音声が口から漏れる。隣の、黒々としたアイメイクを施した女性がちらりとみてすぐに大きな手元の画面に戻した。何も変わらない。扱うデバイスが変化しただけで、暇つぶしにはゲームがまだまだ隆盛を極めている。ただもしかすると彼女はずっと暇を潰してるのかもしれないと思い、それならと怪訝な表情も許せてしまう。

 いつも計算をしてしまう。この煙草をともう一本を吸えばコーヒーは三分の二が消費されて残りの三分の一はすっかり冷めている。全て予見された事実に基づいてアクションが起き、結果に至る。隣の彼女だって私が帰ってもまだ閉店まで居続ける。憶測ではなくて、私がそう予想すれば。それが真実となる。店を出たら最後、もう彼女の動向は確認できないのだから、私が思った通りで頭は一応の解決を導く。確かめようのない事実ならばどれにでも当てはまる。これが世の中というか人間の感覚だろう。

 二本目の煙草を灰皿におしつけて、不来はコーヒーをレジで三つ注文した。テイクアウトであると告げる。カウンターにはまだ首をもたげて背中の丸まった彼女がしきりに入り口をみていた。

 店舗に戻ると早速作業員にコーヒーを渡した、冷めないうちにと付け加えるの忘れない。明かりが顔のあたりでひまわりのように光っていた。丁寧なお礼をまた作業員から受ける。それと、作業についていくつかの質問に答えた。予定通りとはいかないまでも、僅かな遅れで進みそうだった。