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夢が逃げた?夢から逃げた?4-3

「事件の真相を教えて下さい」

「ああ、そのお話ですか。まだ活きていたの、とっくに忘れていると思っていました」

「そのために待っていました」

「コーヒー三杯で?随分と暇なんですね警察は」種田は嫌味を言い返そうと口を開こうとするが、熊田の熱のこもった視線で思いとどまった。ここを訪れる前に、喋らないと約束をしていたのだ。

「では、お話しましょうか。……最初に言っておきますが、受け入れがたい事実も急展開もはたまた、想像を超えるどんでん返しなんてものもありはしない、これを肝に銘じて聞いていほしいと思います。まあ、期待とは得てして裏切られるものだと捉えてもらえれば幸いです。さて、触井園京子さんがなぜ殺害されたのか、それは、彼女が望んだからであり、ある種のメッセージを何方かに送りたかったのでしょう。口が裂けてもいえなかった想いを死をもって表した、とでも言えばわかりやすいかしら。直接伝える手段を取らなかったのは幼少期に植え付けられた記憶に起因する。憑かれていたとの表現も可能です。思い込んでいた。そう、事実はこうあるべきで、幸せは彼女の近しい人が作り上げた世界、これを強制されたのです。だから、いつまでも何年経とうとも身から剥がれはしなかった。よって彼女に残された選択肢は命を絶つことだったのです。無くなれなれば自由になれる。案外、ベストな選択だったのかもしれません、それぐらいに囚われた、と考察されます。もちろん、反論もあるでしょうし、すべてが推論の域を出ないのは理解しているつもりです。あえて発言していると、ご理解ください。ここでもう一つ疑問が浮かんできますね、彼女は誰に偽装を依頼したのか。金で雇うとなると繋がりが発生します。さらにリスクは、工作員の数に比例して増えてしまう、あくまでも自分が死んだ事実が最優先で発表されなくては意味がありません。だから彼女は、これから自殺する人物に工作を依頼したのではないでしょうか」

「それは不来回生と理知衣音のことを指しているですか?」

「さあ、その二人であったかどうかはもう私の知る所ではありません。この国で日に何人の人間が命を絶っているか、交通死亡事故が起きているのか、その中の誰かだとしか言えないのです」

「証拠も残さずに現場を去ったというのですか?」

「関係性が認められなく、かつ犯罪に手を染めていない人間なら簡単に髪の毛や指紋などがあっても、正体は明らかにはなりません。それに不来回生と理知衣音はあくまでも被害者として警察には認識されていたのではありませんか?二人の指紋やDNAを触井園さんの殺害現場で採取された証拠との照合はなされていないのでしょう。また、現場は隣家から離れた場所に位置している、日が落ちてからの作業でなくとも堂々と犯行に及べます」

「しかし、あのおびただしい血から犯人が逃走した経路は?」

「以前に申し上げたはずと記憶していますが」

「何の証拠も根拠もありません、ただの空想」ここで初めて種田が口を挟んだ。隣の熊田は威嚇と言うよりかは、諦めにも似た片目でこちらを流し見た。

 触井園京子は、現場ではなく別の場所で殺害され血液を抜かれて室内へ運ばれきた。そして、採取された血をばらまけば現場の状況は完成する、と前回の訪問で美弥都は言ってのけたが、熊田たちは詳細を聞きそびれていた。触井園京子の家に死体を運んだ意味を鈴木が尋ねたからだと種田は思い出す。