コンテナガレージ

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焼きそばの日6-1

 先週、館山が主張する販売メニューの追加を流して、かれこれ一週間が経過。陽気は太陽が沈むごとに暖かさがじんわりと生活に忍び寄る。北海道の気候も様変わり。気温は世界的な上昇傾向にあった。夏の暑さが定着する時期が早くなったように思う。当日の気候しだいでは、お客が欲する食べ物は極端に分かれるだろう。

 店長は、焼きそばパンの試作品を作っていた。現在は朝の七時である。通常よりも一時間早い出勤。営業は十一時からで、従業員の出勤時間は十時。

 通勤客にまぎれた地下鉄はかなりの込み具合だったと思い返す。ひっきりなしに学生がたわいもない会話に花を咲かせる。誰かが聞いているという事実に気づくのは、数年後のこと。学生という立場で俯瞰することは難しい。あまりにも低俗でたわいもない会話であったので、ノイズとして処理した。

 車内は彼らの会話がメーン。車両の振動、アナウンスもかき消されている。彼ら以外の乗客が私を含めて音声をどのように捉え、感じ、処理を施しているのかと、多少気になった。音楽を聴く人もいたが、絶対数は少ない。会話を聞いている人がほとんどだ。聞こえていないふりでやり過ごしている。ただそれが毎日続くとなると不可抗力といえども、私はごめんだ。

 そのため、朝の早い時間帯を避け、時間を一本を遅らせて私は車両に乗り込む。ただし、一本遅れても今度は大学生が車両を支配するのだから、逃げ場はないのだ。

 パンの時間経過、劣化による味の違いを店長は二時間後に分け、味の変化を確認する。大量のパンを発注して、会場まで運ぶ想定、シミュレートを行っている。パンの補給が午前に一回と、午後に二回行うとした場合である。まずは、ランチ販売での百個は想定をはるかに超えた数字だ、その半分の五十をまずは考えるとしよう。しかし、朝の八時から開店して、お客が並び始めるとなると五十という数字はあっけなく完売してしまうと予測がついた。出店場所は横並びに飲食店舗くっつき、列は自動的に縦に並ぶように設定されている。主催者側のスタッフが列の誘導は行う、書類にそのように書いてある。

 だからといって多めに発注をかけ、残りを明日に回すわけにはいない。商品、パンとしての価値は当日までが限界である。店での二次調理は認められていない、申請した商品のみが店頭に並べられる。どうしたものだろうか、店長は腕を組んで厨房を歩く。出窓の釜をものめずらしそうに眺めるキャリーバックを転がす通行人と目が合い、さっと視線はそらされた。見てはいけない、という威圧を込めた覚えはないのに、腕を組んだ形がもしかするとそうなのかも。心理学者の言う腕組みは防衛本能の現れであり、自らを守るための行動、要するに心を閉ざした者の証だそうだ。どこで聞いたのか、たぶんたまたまつけたテレビだろう、普段店長はテレビを見ない。腕がない人物の防衛反応はどのような行為だろうか、また防衛と結論付ける実験や検証の流れが一切表に出てこないのは、不信に思えた。私だけか、不思議に思うのは。私だけの事例がこれまでいくつ身におきて降りかかったことか、そこそこ無数にある。だから、あまり出来事の信憑性は問わないでいられるようなった。不条理なことの多くを人は信じすぎていると、如実に体験してきたからだ。

 体験。店長はお客の立場になって会場内を想像で歩いてみることにした、火を入れた釜の温度が上がり、それに比例して厨房内の室温も上昇する。