コンテナガレージ

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焼きそばの日7-3

「……正直、わからなくなります」館山は弱音を吐いた。開発を決意してから絶対に後ろ向きな発言はしないように心がけていたのに。しかも店長の前でなんて、言葉を取り返したかった。でも、つい、うっかり、頼りたくなった。

「わかる必要なんてない。相手になりきればいい。自分を薄める、と見えてくる景色。会場に足を運んだらどうかな、もう会場の設営も始まっている頃だろうし」

「しかし、私にはそんな贅沢な時間はありません!」

「不可解さを放っておけるの?」見透かすように、透明な瞳で訊いた。館山は胸を突き刺されたように槍を押さえて抜こうとするが、深くきつく私から抜けないように筋肉が肉体が精神が引きがされまいと必死に抗う。

 仕事がある。これから今日のランチの仕込み、そしてランチ。休憩にディナーの仕込み。それからディナー。片づけだって、明日の仕込みだって私にはやるべき仕事が山済みなのだ。時間はこれっぽっちも残っていないのに。

「君のために従うべき、店のため、お客のため、還流して店のため、そして君に注がれる。一つは形をかけ時間を流れ、再度もとの場所に行き着く、流れ着いて、また流れを求める。塞き止めてはいけない。館山さんは、形を作り上げた。だけど未完成だ。君は何をしたいんだ、君に聞いてる、ここにいる君ではないよ、内部で渦巻いてる本質的な君だ」

「……わ、私は……休みをください!半日で結構です。いいえ、休憩時間を一時間延長させてください、I市までは地下鉄とタクシーで一時間もあれば到着します、滞在時間を五分と考え、二時間弱で店に戻ってきます」

「まだ、七時だ。今から急いで出かけるべきだよ。だって本来の出勤時間は十時だからね」

「忘れてました」館山は腕にはめた無骨な男性用の時計を見て、顔を赤くし、照れ笑った。「私、行って来ます。あの、もう一品は酢飯のおにぎりを考えてました」館山はサロンとコックコートを脱いで、手早く折りたたみ丸める。

「暑いから、おにぎりでも中の具材によっては傷みやすい」店長の言葉は館山に聞こえていただろうか、彼女は白衣を抱えて、ロッカーに急行。ショルダーバッグと薄手のジャケットを掴んで、通路に姿を見せる。

「戻ってきたら必ず作りますから、お米はそのままに。邪魔だったら、片付けてもらっても構いません、いってきますう」

 私じゃないみたいだ。無秩序が微笑ましいぐらいに私を活躍に誘って仕方がない。館山は駅前通りに流れ込み、出勤の会社員で溢れかえる道をかき分けて、四丁目の喧騒な交差点から地下の階段をせわしなく駆け下りた。