コンテナガレージ

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焼きそばの日8-1

 一夜明けた翌日。夜がまっさかさまに落ち切った春の兆しは別れを告げたようにそっとひっそりと姿を隠す、天気は雨曇りで、圧力を込めた雲が空を埋め尽くす。

 昨日、館山リルカが考案したフェス出店用のメニューの採用が決まった。若干完成品に手を加えたが、ほぼ彼女の作品、料理といって差し支えないだろう。もう一品の料理、酢飯のおにぎりは、形状を長時間保てない点が不採用を言い渡した理由である。

 メニューを書いたファックスの送信前に、フェス主催者側のフード担当、川上謙二が店に直接、提出メニューを聞き取りに姿を見せた。カウンターに座る川上が一口食べただけでアイスパンはその場で販売の許可を得られる。暑さが食べ進める手を加速させる、特別扱いの要因を川上に尋ねたが、言葉を濁すばかりで内容の明言を避けられた。おいしいから、そういった表向きの理由だけでは、出店費用を主催者側が持つとは思えない。何かしらのたくらみ、店長からは見えない角度の儲け話の匂いが微かに香る。それでも店長はだまされることを甘んじ受け入れた。世界は持ちつ持たれつ、とはいかないまでも、搾取の連続である。だまされる気分を味わえば、お客の心理に寄り添えるとも考えたのだ。

 店長は思いついた疑問を川上にぶつけるが、彼は食品の担当であるため、会場における過去のデータ、例えば来場者数や会場内の泊り込みは、曖昧な返答しか得られなかった。それでも、当日の気候については、寒暖差と強風は毎年常に起こりうる事態と考えて間違いないとの回答であった。無風を異常事態と取るべきだ、と強調して言われた。テントの設営もその関連で、主催者側の入念なチェックが行われるのだそうだ。強風で吹き飛ばされた事例が過去に一度だけあり、けが人は出なかったがそれ以来、突風に数時間耐えられる工夫を施しているそうだ。また、会場から出るシャトルバスは最終バスは二十四時をもって終了となる。お客は一度ホテルに帰るということだった。

 おぼろげながら見えてきた会場の雰囲気。館山から会場の大きさについても、四つあるステージとオートキャンプのエリア、それにバス乗り場と一般の駐車場は一キロほどの距離があって、ライブステージ自体は身を寄せて建てられていそうだ。まだ建物の完成は二週間ほど先の話らしい、海外のアーティストの視察に出くわし会場の説明を遠巻きに眺めて聞いた館山の情報であった。