コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

焼きそばの日9-2

「どうされましたか?」地方の県議会にいそうな誤った意思疎通の仕方。店を訪れた時の印象にはなかった。日焼けした顔に快活な漲る目力、複数の人物の接触による大仰な態度の形成だろうか。こうやって人は自らの本心を守るらしい。店長は変わり果てた、本人は気づかない一面、はがれそうなシールの角を見つけてしまった。

「会場の視察と、会場までの所要時間の計測です。出店会議の情報だけでは不足ですから」嫌味を言ったつもりはないが、店長は言ったそばから、そう取られても不思議はないと発言を後悔した。しかし、手遅れ。さらっと流す鈍感さを相手に願った。

「熱心で感心します」

「会場の出来上がりはいつごろでしょうか?」来月の中ごろ、二週目の金、土、日がライブの開催日である。店長たちの視界を支配して止まない光景は現状、営業停止の遊園地が最適な表現だった。入り口、出迎える車と人との玄関口はまだまだ、人の手を必要とする装飾や色合いが落ちぬけている。

 店長はタバコを手にしていた。流れる風の影響を煙によって視認化、表向きのポーズ、本来はタバコが吸いたくなっただけ。車内では吸えない。禁煙車を借りていたのだ。レンタカーすらも煙を嫌っている。もちろん嫌うのは乗車する人間であるが、交通量の多い道路を歩けば、その排気ガスの多さに煙を嫌うことの矛盾が体感できる。

 川上は応えた。「失敗には及びません。来週に会場内の施設は完成予定です。現在は配管や水道設備の準備が主な作業で、これが終わり次第、会場の設営に取り掛かります」

「私を選出した理由をお聞かせください」店長はかしこまって言った。真上から延びた日差しが傾きだした、まぶしさに顔をしかめる。

 川上が後ろに止めた彼の車に誘う。後につく、他に聞かれたくない話らしい。

「……あなたを誘うように言われたんです。ここだけの話ですから、誰にも話さないように」助手席の横で彼は囁いた。店長は真剣な瞳に微かな被りを認めた。まだ隠していることがあるのだ、この人には。

「私を知っている人物は想像できません。私には知り合いがいないのです」

「またまたご冗談を。店のお客の大半はあなた目当てだって言うじゃないですか」

「誰が言っていました。そんなこと?」

「噂ですよ」

「頼んだ人物は明かせないのですか?」

「本来は、あなたに打ち明けるもの躊躇われます」川上は口ごもって、躊躇い、しかし、口を開く。「それも焼きそばパンを売るようにと言われました」具体的に端末の会話で伝えられたそうだ、ボイスチェンジャーで音声を変えていたらしい。

「既に全国区のメニュー、目新しさは微塵も感じません。どこに魅力を見出したのか、そもそも川上さん、頼まれる前に私は自らの意志で焼きそばパンをランチで売り出した。この会場での販売とはあまり違いは見出せません」相手の名前は一か八かで店長は呼びかけに踏み切る。相手は否定も訂正もしなかった。