コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

ガレットの日1-2

 空気を抜いたハンバーグ満載のバットが一枚完成、その上にもう一段バットを重ねる。バットにはハンバーグが張り付かないようにラップが敷いてある。

「ガレットを出すべきです、ランチタイムに」小川が薦める。

「ハンバーグは明日のランチの仕込みだよ」

「わかってますよ。ですけど、世間の流れに乗るべきで従うべきですよ、たまには」

「そうやって、唆されてひどい目に遭ったからね」

「あれは不可抗力ですよ。フェスの川上さんでしたっけ、あの人だって偶然に店に入ったようでしたもん」

「そうかな」店長の言葉が濁った。

「まさか!」小川は手元のタネを強く握った。「もしかすると、あれも作為的な行為だっていうんですか?」

「行為はいつも作為的だよ。形が崩れているよ、やり直して」

「はい。……うちの店の影響力を利用したんですね、そうに決まってる、私今日は冴えてるかも」意気込んだ弾みで片手に移動するタネを落としそうなった。苦笑いで店長の冷たい視線を撥ね退け、彼女は続ける。「けどですよ、フェスの集客が落ち込んだっていう噂は聞いたことがありませんね。もっとも収益を目的としたイベントには思えませんし、莫大な出店料から予測するに、誘致は基本的に行っていないようです。協賛するスポンサーだってそれなりの見返りが後に期待できるから資金を提供する。やっぱり丸々タダということではない。あれっ?考えが二転、三転してますね、私」

「何の話をしてるの?」店長が手際良く、ハンバーグを成形、小川の手に残るひき肉が最後の一塊。これを一晩冷やす、肉を休ませると味が染み込んで、しっとりと仕上がる。そういえば、お客は常に肉汁を待ち望んでるけど、白く固まった油は嫌がって、肉からあふれ出す油はどうして好むんだろうか、彼女にとって未だに不可思議な常識である。

「ガレットです、ガレット」

「うちはフランス料理に傾倒した覚えはないよ」店長はバットを冷蔵庫にしまった。休憩を挟むことなく次の仕込みに移る。

 大丈夫だろうか立ち続けで、喉まででかかった言葉を小川は必死で飲み込む。私ならば休みたい、と進言するのに。

「聞いてるの?」

「おうっと、すいません。ちょっと考え事を。コンソメスープを作りましたよ。あれはフランス料理でしょう?」

「だからといって、そば粉の用意は今からじゃあ難しいね」

「難しいなら用意は可能ともいえます」腰にてあてる店長が呆れて見つめた。

「噂で聞いた、というのは嘘だね。本当のことを言いなさい」

「……やっぱりすごい。店長、占い師になれます、嘘だってどこでわかったんです?」小川はシンクで手の油を落とす。ついでにひき肉をこねたボールも洗う。店長は手袋をはめていたので、腰に当てた手はさらさら。

「ガレット、そう話しかけた瞬間の違和感、あとは本屋というフレーズ。いつも聞かない単語が二つ登場した。厨房に入って来た時の態度も思い返すと、ぎこちなさが満載だった。後は、言葉の端々、石橋を叩いて渡るような慎重さ、こちらの出方を伺っていたからね、いつもはもっとはじけ飛んで、収拾がつかなくなって撒き散らす紙ふぶきをかき集める。今日は途中で矛盾に気がづいて会話の中で回収し、最終的な結論が出てきた」

「ぐうのねも出ません」小川は水を切ったボールを渇いた布巾でふき取り、定位置の吊り戸棚に戻す。視界にはちょうどホールのテーブルで棚卸の在庫チェックに忙しい国見がいる、髪をかきあげていた。

 時を同じく、店のドアが開いた。

 なだれ込むように二人、マカオカラーに身を包み髭を蓄え、髪を撫で付けた男性と細さを強調したまだ北の夏には早すぎるショート丈のパンツに上半身は肩を出したタンクトップ姿の女性が厨房の二人へ突然の登場による驚きを強要する態度で、傲慢に店に現れた。ホールと厨房を隔てる通路に二人は立つ。

 ドアのカウベルが重い金属音で二人を出迎えた。