コンテナガレージ

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ガレットの日3-3

 館山が手招きするように中に男性を呼び入れた、ベルが鳴る。

「私にも、一ついただけませんか、数メートル先で何時間も立ってるのは拷問。食べてみたくなりまして、御代はもちろん払います」

「列に並んでください。特別扱いはできません」店長は一瞬だけ上げた顔を、フライパンに戻した。切れ目を入れたそば粉の生地に焼き上げた卵焼きを挟む。

「監視の時間を私の食事で空白が出現する。あなたにとって好都合」にやけた男性が話す。ドラキュラみたいな口元、妖怪に例えなかったのはかつて人間だったから。

「監視は複数の可能性もありうる。昨日の宣言ではとても一人で監視を行うような言い方ではなかった、とても大掛かりな見張り、そういった内容だと思い出せる。が、あなた方の組織の現存を私は確かめようとせずに、今日に至った。私は重要度を低く設定しています」

「信じようと疑おうとあなたのご自由ですけれど、協会は存在しますし、私は十年、協会に勤めています」

「そうですか」

「お金を支払う、といっているのです」男性は低音で迫った。あと一歩で厨房に足がかかる。異様な雰囲気はなんだろうか、男性は窓の外で手を振っていた訴える人物とはまるで別人、表情に影が克明に描かれているみたいだ、館山は恐怖を感じた。その兆候、上体が仰け反っている。釜に近づきすぎて、熱さで身を離した。

 店長は手を止め、コンロの火を止め、毅然と応えた。「特別な提供を断る、私にはその権利を有すると自負している。また、あなた方の指示に従ったこともこちらにある程度の優先権、ようするにあなた方はこちらの意見を汲み取る配慮はあって当然。あなたは私にのみ、権利を主張を振りかざし、こちらの規則は従わない。ルールを遵守する立間の人間ならば、列に並ぶことは当たり前に守るべき事柄の一つではないのでしょうか。このように無駄に話している時間にもランチ終了の時間は刻々と迫る。それでもお客は承知の上で並んでいる。あなたはリスクを追っていない。同等の権利を持ちたいのなら、最後尾に並んでください。ただし、あなたには行き渡らない。もう三十本ほどで売り切れます」

「心外だ!お前は何様のつもりだ」男性の声が唸りのように吐き出された。無意識に体がびくつく。

「……て、店長、追加のガレットを……、どうかしましたか?」小川が容器を抱えて入ってきた。

「どけていただけますか。それと店からも出て行ってください」店長が退出を促す。パチパチと釜の内部がおどろおどろしく赤々。

「そこの出来立てを一つ食べさせろ」

「二度目手間はごめんです」

「おい!」

「犬ではありません、まして動物であっても名前という概念は、くりかえし呼ぶことで自身のこと、あるいはその先の与えてくれる行動によって、相手は振り向き、関心を示す。あなたにそれがあるようには思えない」