コンテナガレージ

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ガレットの日8-2

「数時間のタイムラグが毎日起こり得たら、僕は指摘を余儀なくされる。ただ、国見さんにそういった一面がこれまでの付き合いで散見されたのたのは今日が初めてだった。考えるに、それは不測の事態であり、今後の発生は万に一つ、起こりえないのだろう」店長は煙を吐いて、意見を述べた。

「……眠っていたのは、はい、正しい答えではありません」

「言いたくないのであれば、いわなくてもいい。ただし、二人にはきちんと説明をするべきだ、明日も二人とは顔をあわせる」

「ランチ用の容器を買って店を出た場面までは覚えてます、あの、それ以降の、記憶がごっそり抜け落ちて、大通りの噴水前のベンチで目が覚めました、私、どうかしてしまったんでしょうか?」

 記憶には二種類存在する、現在の場面を新しく書き込み、未来を予測、場面転換を促すための記憶と、過去の例に倣い、引き出した記憶を元に最小の変化率に対応を抑える省エネ型の記憶である。国見のように抜け落ちた記憶というのは、過去に即したそっくりの行動であり、時間帯であり、または環境や気温であった要因が重なれば、記憶としての定着は薄く、限りなくそれは過去のいつかの日と類似点を記憶が見出していれば、重なり合わない部分のみが抽出されるのではないのか、と店長は思う。

 お客への対応を例に考えてみたのだ。店長は店の経営以外について、思考の浪費を避けている。

「恐怖で記憶を封じ込めたのかもしれない」以前、彼女はカフェでナイフやカッターのようなもので背中に傷を負わされた。傷とは言っても、かすり傷だった。そのため、白いシャツを切り裂いた事態にまったく気づかず、居合わせたお客に言われてようやく認識していた。

「それはありえません」国見はきっぱりと言い張る。「私は、誰にも頼らないと決めました。あの時から」

「記憶をなくした、ということではないんだね?」

「はい、ランチの容器もメープルSTで買いました。見てください」国見はレジから店の財布を取り出す、レシートを見せた。日付と購入品は彼女の発言と一致する。信じて欲しい、彼女は無言で訴える。しかし、言葉には出さない。プライドか、それとも潔白を主張するだけの自信を持っているのか。 

 店長にはそれらはどちらでも構わなかった。店は局面を乗り切った、目的は果たされたのだ。同様の事態を招く恐れに対して、企業では対策を講じる。しかし、店長はなにもしない。行動は起こさない。それは店を乗り切るために必要な行動かもしれないからだ。彼女たち三人が常にいつまでも店に携わることはありえない、近い未来に、明日にでも店に来ないかもしれない。そういった事態への対処、予備の練習としては最適だと捉えた。もちろん、国見が明日また同様の失敗を犯さない前提に基づいた見解といえなくもない。