コンテナガレージ

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今日は何の日?9-3

「閉店していない、店は開いている。それだけ、これだけで人は店を認識する。内部の様子も伺うだろう、何かあったのか、もしくは今後もディナーは再開しないのかと。すべてをさらけ出して、懇切丁寧にお客に打ち明けるべきだと、僕は思っていない。突き放した営業というのを目指してきた。それこそ、この間のランチのように不測の事態に対応した場合はお客に聞かれるまでその理由を話すことを拒んだらいいよ。黙っているんだ、話す用意はある、聞くのは、尋ねるのはお客次第さ」

「……わかりました」国見は口が開かないよう魔法をかけられたように開度を制限して話す。「ですが、一週間後にまた次の一週を続けるのか、議論の場を設けることは約束してください」

「意見が食い違ったら?」

「その時は……その時にまた考えます」

「店長、味見をお願いします。これは結構傑作かもしれません」小川は飛び跳ねそうな勢いで釜から引き出したピザの出来栄えを求めた。生地が厚い、火の入りにムラがある、それに適正な温度管理はまだ不十分だ。しかし、確実にその一歩は完成に近づけるための正当性を秘めている。調理台に置いた彼女のメモ帳には、焼き時間、変えた位置の回数、温度、生地の分量と発酵時間、一枚のグラム数が細かく記載されていたのだ。彼女は自ら規則を作り出す。

 感想は正直に伝えた、不憫には思わない。それが彼女にとっての価値だから。国見にはあえてすべてを言わない、これも彼女にとっては価値だからだ。国見は川を見ればいいのに、店長は思う。いつもそこにある水の流れは流れているから、そこにあるように煌めくよう、よどんでいるように見える。

 その後、納得のいかない国見とランチの動き易い形態を話し合う中で、再び闖入者が店に舞い込む。

 ヘルメットを抱えた女性が決然とこれから身投げするような形相で店内をそして店長を血走った瞳で捉えた。午後の六時であった。