「倉庫は奥です。一番奥の左手、ドアのない所に食材をおいています。何ならご自由に調べてください。あらかじめ言っておきますと、厨房の中には生の米は保管していない。高音や湿度の高さに晒される場所ですので」
「調べますよ、あなたが調べていいといったんです。ほら、レコーダーにも録音してある」端末、かすかに時間を計る、数字の刻みが見えた。
「動かした物は元に戻しておいてください。期限の古いものが手前に置いてあります」
「笑っていられるのも今のうちだからな」指をさされた。失礼と人は捉えるが、五本の指に一本で主語のない対象を示す手がかりとして考えるとかなり有効的な動作。だが、僕を店長と知っているならば、言葉に出したほうが楽であるのに。
小川が口笛を吹く。「キャラ、変わりすぎ」
「止めましょうか?」カウンターに近づいた館山が腕を捲くる。
「必要ない。それぞれ後片付けを始めよう。時間内に終わらせるのも、仕事のうちだ」
「そうよ、無駄な賃金はびた一文、支払えません」皿を拭く国見と店長だけがてきぱきと手を動かしていた。厨房の二人も、後片付けに手をつける。
時間にして十分ほど、洗剤を水で流す作業を残す段階に差し掛かって、倉庫から男が出てきた。
「どうも、お騒がせしました」平謝りにも傾ききれず、また虚勢を張るだけの酔いも回っていない。男は、不安定な面持ちで振り絞る取り繕いをうなずくように下げた頭で表現し、ベルの音と共に店外へ。
「なんなんですかぁ、あれは?」館山は出窓から足早に歩き去る男に不満をぶつけた。
「倉庫の商品が荒らされていないことを祈るだけだね」