まずい、陰口を言われるのを人は怖がる。まずいと感じる相手とおいしいと感じた自分との乖離が、味の差を埋める。危険はつきもの、味の成功は右に習う。それでも次がおいしければ十分である。加えて、人が求めているのであれば、高級な食材を使わなくとも対価は得られる。僕の作る料理のすべてはおそらくは誰かの二番煎じだろう。しかし、月曜の予測のつかない天候にランチを売り出すのは、その日を選んだ僕である。特別な味の追求も最先端の調理器具を駆使した食べ方に気を使う疲弊を添えた料理とは無縁。対象者は日々の労働者であり、中、低の市民層に向けたサービスなのだ、あまり期待させないことも消費者には悟らせるべきである。また一つ教訓を得た。
「店長、もしかして日曜日も店に出てきたりします?」タイムカードを切る小川が、真意を青白い白目と中央に浮かぶ黒目で読みとろうとする。
店長は、考えから我に返った。現実に引き戻した彼女に言う。
「私生活の雑務に時間を割かれないなら、店にはいつも顔を出している」
「私も手伝っていいでしょうか?」
「給料は支払われないし、休息は必要だと、いつも言っているのは理解しているだろうか?」
「学ばないと、進歩はありません」
「店に出てこなくても、今日の手技を見返すことも十分に価値がある。それはいつも同じ空間の店では味わえない経験。作りたい衝動を膨らませなさい。それを月曜からぶつければいい」
「なんだか、うまくあしらわれた感じです」
「ライスの注文に代わって、単品料理が増えた影響かしら、今日は売り上げがいいですね」カウンターで帳簿をつける国見がつぶやく。
「それはだって、お客さんもいつもの土曜日じゃなかったでしょうに」
「ううん、お客の単価が高いのよ」
「ピザがよく出たな。もう今日は汗だく」館山はコックコートを脱いだ。
帰り自宅を済ませた従業員が次々に店を後に、今日も一日が閉じる。店長は地下鉄を待つ間に、来週の天気を端末で調べた。そこで検索ページのトピックスに目を引かれた。