「白米の大量摂取による健康被害が報告。江戸がえり、あの病気が再び流行か?」
「鉄分、亜鉛の損失による貧血多発。朝礼は急病人、発現の元」
バランスのよい食事は、結局は多大な量を食べないことにあるのではないか、店長は端末の電源を切り、ポケットにしまう。左右、壁や広告が貼られる透明な板に背を預ける乗客は、一様に端末を操る。彼らには考える時間という概念が消失しているらしい、僕はそこまで急速な思考の転換に不向きな頭の構造である。うらやましいとは思わない。むしろ、掬い取るだけの行為をどのように消化?昇華しているのかさえ、気になる所だ。
特定の人物に意志が通えて、生きている証が生まれるなんて、自分をないがしろにしていると行き着かないのだろうか。誰かのため、家族愛が、ホームをさえぎる幅広の支柱に映画の広告用ポスターに、自己犠牲の尊さを呼びかける。
自愛と慈愛が共存できてしまえる体内の環境が僕には矛盾にしか思えない。
車両がホームに風と共に進入。並んでいた僕にいつの間にかそのすぐ両脇、しかも一歩踏み出した立ち位置に端末に忙しい乗客が躍り出て、ドアが開き、乗客が降りるや否や、僕を押しのけて空いた席、しかも端の片側しか人と接触しない場所を我先に取り合った。
席は埋まり、僕はデッキでぼんやりと乗客や映画の広告から離脱した。
トンネルに入った暗がりの車内。
車両ドアに反射する席を獲得した乗客の顔は引きつった企みとあざけりを滲ませていたように見えた。