コンテナガレージ

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予期せぬ昼食は受け入れられるか?1-6

「拡大する小麦の健康被害への対応策は?」

「他の食材への切り替え」

「ええっツ、ピザやめちゃうんですか、賄いでは食べられますよね?」

「大豆ですか?」

「察しがいいね。植物性のたんぱく質の中で、市場の出回る量の多さでは一番だろう」

穀物ではありませんよ」国見は目に涙を溜める。「この店を離れたくは無いんです、どうしてわからないのですか!」

「失うという意識にばかり気をとられているね。いつかは必ず店はなくなるだろう、もしくは建物は誰かに受け継がれ店は続くかもしれない。僕は、年齢的に君たちよりも先に死んでしまうね。もちろん、君たちは雇われている、店を辞めるのが、料理人としては妥当な選択。誰でも自分の店を構えたいと思うし、移り変わりは避けられない現象だ。君だって、昨日の君ではない。細胞は入れ替わり代謝が行われた。昨日の君は死んでいる。別人だから、毎日死んでると僕は考えて生きてる。死に向かって生きている、今もだ。だが、店にとって君は今日も重要だ。僕の手間を君が担ってくれている、感謝もしている、店の権限の半分を君に任せている。必要だから、君を雇った。僕が偏屈で変わり者であることは、これまで付き合いで、よく理解していると思う。その僕が、君を迎え入れたこれまでの時間を振り返ってみただろうか、いいや一度もない。君のことは何も知らない。ましてプライベートなことは一切、僕は知る必要ないと思っている。けれど、それが君の評価をないがしろにしていることにはならないと思っている」

「いつも言ってくれないから、一気に言うなんてずるいですよ」水の玉が国見の頬を伝う。

「きかれなかったから、応えなかった」

「着替えてきます」

「素人の密着生活よりもリアル……」

「ああ、いう人だったんだ」館山がつぶやく。

「どちらか、開店の準備を手伝ってあげて」

「私がレジを開けます」

「それは私。あんたは、床掃除のあとにテーブルを拭いて」

「先輩ばっかりずるいですよ、私もたまにはがちゃこんと、レジを華麗に叩きたい年頃なんです」

 陽気な二人の会話は、落ち窪んだ店内の空気を一新させる効果を発揮した。

 音楽を流す。

 瞼を腫らす国見が落ち着きを取り戻し、今日が始まる。

 三十分早めて店を開けた、時間が早まった分のお客の数に応じられるはずだ。

 店先に小川を立たせて、テイクアウトの販売を今週もまた始めた。