コンテナガレージ

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抑え方と取られ方 3-6

「何を言っても、引き下がらないつもりね。わかった、わかった。ふうん、最終手段は使いたくなかったけど。明日から、店は小麦しか使えないようになってもいいよね?」不敵な笑み、顎を引いて、彼女は白眼を強調する。ドアのガラスから漏れる光が彼女の影を大きく不気味に輪郭が際立つ。

「小麦しか使えないなら、店は開けられません。それはあなたにとっては不本意では?」

「永久に営業停止。それか、小麦のみの店を開くか。二つに一つね」

「選択肢とは二つ以上の候補が存在する。あなたがいわれる現実は、極端に偏った二つ、限りなく黒に近いグレーと真っ黒しか用意されていない」

「世の中のほとんどは選択はあらかじめの用意周到さによってウィンウィンが成り立つ。すべては出来レース。準備に時間をかける。選択の一挙手はお飾りよ。知っているでしょう、あなただってそれぐらいは生きている」

「すいませーん。ヤマイヌ急便です」張り詰めた空気を一蹴するベルの開閉。戸口の彼女に扉が当たる。「あっ、すいません」

「中に人がいるかもしれないって考えて開けなさいよ、まったく」よろめいた彼女は悪態をつく。プラスに働く外見の印象は、見合った行動も必要不可欠か、店主は落差による印象の受け方を学んだ。料理に使えるかもしれない、頭の隅ですぐさま再現可能なレシピの創作にかかる。残りの意識で二人の対処に当たる。ホールにかかる時計を見た。午前八時半をまもなく刻む。

「サインをお願いします」

「私はここの人じゃない。だから、確認をしろって」

「すいません、重ね重ね」いそいそ水色帽子の青年が近づく。「サインを、お店の方ですよね?」

「はい。ボールペンを貸していただけますか?」

「ああ、どうぞ」

 店主の目は伝票を注視すると、二度の瞬き。そして、状況の複雑さを予測してしまう。仕込みには取り掛かれないか……。愛想笑いの帽子は、次の配達先に意識が傾いていた。