コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-9

 こちらの問いかけのまもなく、電話は料理番組の映像のように文字情報のみが流れて、通話が強制的に切られた。

 なんだったのだろうか、コーヒーの説明をわざわざ彼女が私に教えるとは、事件の解決が絡んでいるのか、それとも迷いを生じさせるつもりだろうか。

「あっ、ここにいた。刑事さん、どうぞ、意識が回復しました。こちらです」マスクを填めた看護師に呼ばれた。種田は立ち上がり、端末の電源を切った。ポケットにしまう。病院に向う途中で舞先の意識は途切れていた、呼吸は確認できていたが、それ以上の生命維持に関わる状態の判断を持ち合わせてはいない私であったため、回復の時間は多少なりとも長時間、あるいは数日単位を予測していたのだが、案外早かった。

 案内されたのは、正面ドアの真向かいではなく、その右側のドアであった。

 簡易な病棟。三つ目、奥から数えて二つ目のベッドに舞先の姿を見つけた。室内は静寂というよりも工場を思わせる定期的な機械音が足音や器具のこすれる音たちは医療従事者の会話を超えて、堂々威厳を保つ、この場の主に思えた。

 ベッドに近づく。看護師が優しく問いかける、薬の作用だろうか、舞先の表情はまだうつろであった。

 看護師に視線を送った、席をはずせ、という意味だ。二回、明らかに長い時間見つめて、やっと立ち去ってくれた。

「今日、社長はどちらへ、事務所や倉庫に出勤されはいなかったのですか?」種田は指一本分口を開けたままの彼女に質問する。顔は蒼白から気持ち肌色に傾いた血色、いぶされた煙が枕に広がる髪の辺りで漂う。

「……朝に、朝に出て行ったきり、戻ってきません、でした」舞先は言葉を切る、切らないと声がでないのだ。「用事、があるとかで、団体客の斡旋に外国人専門の旅行会社と交渉、するとか、どうとうかで、はりきってでていきました」

「昼には戻られなかったと?」

「……ええ」

「そういったことは、これまでにあったのですか?つまり、出て行ったまま約束の時間になって戻ってこない、ということです」

「飛び込みのお客さん、は、少ないです。だから、事務所に、いなくても、ごほっつ、問題はありません。予約、のお客に対応、できてはいま、した。その他の時間、なにを、してたの、かはわかりません」

「単刀直入にお尋ねします」種田は声を潜める。「あなたは飛田さんと個人的な付き合いがありますか?」

 片方の目が閉じた。口元が引きあがる。「まさか、だって、おじさんですよ、社長は」