コンテナガレージ

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エピローグ1-2

「降りてこないのよ、情報が。こればっかりは上も口が堅くて」

「要するに」

「ええ、そういうことよ」

 沈黙。

「歌って」

「僕がですか?」

「歌は嫌い?音痴だったりして」

「嫌いでもないですし、音痴でもない。音楽の成績はこれでもよかった」

「まだ授業で一斉に歌わせてるのかしら、おかしいと思って昔は言い出せなかったな」

「リズムの取り方や音程の調節を習った試しありませんでした。大きな声で元気よく歌えば、評価に値した。つまり、教師の要求にどれだけ答えたかの指標に素質や備わった資質が成績の判定」

「あなたは歌わされて嫌になったのね」

「まあ、そんなところです」

 転換。

「またしばらく接触を控えますので」

「前も言ってましたね。けれど短期間だった」

「事情が変わったのよ」

 本題。

「要件は?」男が言う。

「事件を事件として取り扱わない手はずを整えて欲しいの」

「あなたも関与していると?」

「どうかしらね、あなたの想像次第よ」

 グラスの氷が溶けた、崩れてグラスとコンタクト。

 崩壊。

 室内の均衡が氷解を真似た。

 開錠、開閉、階下、足音が近づいた。彼女はゆっくりと振り向く。

「警察だ。そっちのお前もだ、署で事情を聞かせてもらう、立て」

「久しぶりだな」

「部長!」

「あら、お知り合い?」

「ええ、まあ、顔見知りですかね」

「どうしてここに、それよりも事情を」

「事件か?」

「プライベートで私が手帳を見せると思いますか?」

「私って捕まったのね?」

「飛田が自白した」

「あらら」

「場合によっては、部長、あなたも連行の対象です」

「今日初めてだ、ついさっき会った。店にはその人しかいなかった。マスターは席をはずしてるそうだ」

「あなたも刑事さんだったの?」

「刑事です、と挨拶のついでに言ってしまうべきでしかね」

「誰か、この人を頼みます」女性刑事から二人の男に両脇をつかまれる。首を仰け反らせて、彼女は一言言い放った。

「私の分も支払ってください。ツケはまたいつかお返しするわ」