コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ゆるゆる、ホロホロ1-4

「少女と駐車場の職員はお互い、その二人は目撃者により補完される。外枠を眺めるためには、枠の外に出る必要がある、それも一定の距離まで遠ざかって。見ているものは含まれている一部、全体を見渡すためには目撃者が現れたとしても現場は立体駐車場の出入り口です、構造物の遮蔽は角度によっては全体を見渡せない。また、目撃者も駐車場職員の声を聞いたことがあるとは思えない。普段の通り道で聞いていたとしても、それがその人物の声かどうか、その場でその男で見慣れた格好であるからなのです。状況と過去と記憶です。まったくの別人がそこで似たような声色で車を誘導していたらおそらくは気づきはしない。つまり、第三者による判断は材料としては不十分で、それはまた、職員の証言の全面的な否定は難しいということです」いい終わると種田も瓶に直接口をつけてサイダーを喉に流した。

「ひとつ疑問に思っていることがあります」店主は指先に挟むタバコで灰皿を叩き、言う。

「なんですか?」

「お二人が捜査に借り出されているのは、特殊な状況下だと思うのですが、これは事件とは無関係なのでしょうか」料理の工程と似ている。なぜその食材や香辛料が使われているのか不思議に思うことがある。どの料理書にも必ず入ってる食材を取り入れた場合と入れない二種類を作り、味を比べるとありがたみや効果、存在意義、といったそれらの作用が知れる。そうやってこの事件も二人の刑事が登場しない場合を考えてみると、異質な状況が浮かび上がるのだ。そう、所轄の刑事や警官は周辺の警備や交通整理に借り出されていると見受けられた。直接、事件を調べているのは目の前の男女のコンビ。それに鑑識も彼らの管轄から派遣されたとも聞く。

「警察に一冊の原稿が送られ、その内容が今回の事件と酷似してました。郵送された当日に、一件目の事件が発生、事情を隣町の管轄に打ち明け、こちらで捜査を進めることになったのです。私もタバコ、よろしいですか?」

「どうぞ」相当我慢をしていたらしい、煙を吐いた熊田から思わず、「うまい」という言葉が放たれた。

「小説には具体的な殺害方法や犯人像が書いてはいなかった」

「ええ。小説の犯人は殺害の動機は語っても、凶器や殺害の方法はしゃべりません」

「殺害の描写が書かれないのは斬新、読者は納得しないでしょう」

「そういった、声は上がっていたようですが、それもまた話題を呼んでいたみたいです。ネット上では本の発売当日に犯人の名前が晒されてしまう対策ではないかという意見もあるようです。私は初見でしたが」

「被害者まだ増えますね、お二人が動いている様子を拝見すると」

「まあ、ええ」

「思い切って世間に公表したらいかがでしょうか?抑止力と個人の警戒心を高めるには効果的だと思います」店主はタバコの火を灰皿に押し付ける。すっと熊田のほうに寄せる。「というか、どうして私に話を持ちかけるのでしょうか。相談相手ならばもっと適当な人がいると想像します」

「事件の早期解決には欠かせないのがあなたですよ」

「私が犯人だから?……否定しないのですね」

「ある知人にとてもよく似ている、考え方も思考の跳躍も、仕草も立ち振る舞いも、そして顔も」