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摩擦係数と荷重5-2

f:id:container39:20200509131858j:plain「明日の仕事のために資料を作成しなくてはならないので」母親はためらうことなく瞬時の回答。後ろめたさが察知できない。
「大変ですね。では、7時に事務所でお待ちしています。はい、失礼します」
「4時か。まだ4時間もあるぞ」熊田は鈴木の開け放たれたドアを見やって投げかけた。
「僕に言われても困りますよ」鈴木の眉が中央による。
「相手の都合に合わせくてもいいだろうが、こっちは緊急を要するんだぞ」
「殺気を出したら悟られます」くるりとピンと伸びた姿勢で種田は助手席に乗り込む。微かにタバコの臭いが漂っているが、許容範囲だ。そうだ、警戒心を抱かせると本心を聞き出すのに苦労するのは目に見えていた。ただでさえ、仕事を優先させたのなら、もしも仕事が絡んだ事件当日の事実であるとかたくなに拒むことは必至だろう。
「もし母親が犯人なら、警察との約束を交わしながら犯行は起こさないでしょう」つまり種田が言いたいのは、午後7時までは早手美咲が犯人の場合に次の犯行が抑止されるのことだろう。
「そう言い切れるか?」
「見張られているかもしれないと思いますよ」
「犯人だったらな」
「どういう意味です?」
「罪を犯した者が別にいて、母親がその共犯であったらどうする?警察からのマーク及び注意は母親に集中する。すると次の犯行が用意になる」
「複数犯ってことですか。それは頭にありませんでした」あっさりとした受け答えの種田。
「二人も殺害する犯行は複数犯にはリクスがあります。他人と共有する相手なんてそんなにいるでしょうか?」鈴木は疑問を投げかける。
「互いの殺したい相手を殺せばいいだけだ。それなら、殺害動機の共有なんていらない」後部座席、運転席の後ろに乗り込む鈴木に熊田が言った。
「あの、お腹すきません?」座って落ち着いたのか鈴木は思い出したように言う。
「空きません」冷たい反応の種田、熊田は無言でタバコをふかしている。
「君は、普通じゃないからね。熊田さんに聞いたんだ」
「普通の定義は何でしょうか?」
「まただよ」肩を竦めて両手を間近に迫った天井に天秤のように向ける。
「また?鈴木さんから話を始めてんですよ」肩越しに片目で頑なな瞳で言い放つ。
「はいはいわかった。ごめんなさい、僕が悪いです」鈴木は手をあわせて合唱のポーズで最大限の非礼を詫びた。
「悪いなんて言葉を求めたわけではありません」しかし受け取られるどころか筋違いだとひらりと躱されてしまう。
「もうだったらどうすればいいん……いいのさ」ついつい後輩であるのを忘れ種田には敬語で話そうとす自分がいる、
「どうも」助手席から右手がウエイトレスの不安定なトレーの持ち方のようにあらわる。「失言であったと認めくれれば文句はありません」
「ふたりともそれぐらいにしておけ。時間があるから、休憩にしよう」不遜なやりとりを熊田は諌める。
「やっと昼食か」ほっと撫で下ろして、鈴木はお腹をまぁるく円を描くように撫でた。
「もうお昼過ぎてますけどね」ポツリと種田が呟いた。