コンテナガレージ

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あちこち、テンテン1-3

「うまくいえないのですが、こう、おいしい味を引き出すには誰かの真似をしたらいけないと思ってしまうので、レシピ本とかを見れなくて……、味を作るのが怖くなりませんか?」

「真似るべきだと僕は思うな。だって、それっておいしいから本に掲載されて、おいしいからメニューに加わる。誰のものでもない、文章だって言葉だって自転車や車の運転だって誰かのそれを見てまねて覚えて反復して習得する。悪いことではないと思うよ、真似は。ただし、本当においしいと感じたらだけど」

「精巧な複製はダメだってことですか?」

「作られる過程を把握してなければ、工程、順番もおざなりになりかねない。意味のある行動と理解を深めた上でおいしさは作られる。肌身で感じると味の良し悪し、ほかの料理にも応用が利く。視野が広がるんだ。工程の手順が頭に入っている、ショルダーバッグで、荷物は持っていても両手は空いているようなことさ」

「……」館山りルカは店主に見惚れていた。傾いた顔、首筋がほんのり赤い、色の白さのためである。

「館山さん?聞いてる?」店主は突然電池の切れた館山に顔を向けて問いかけた。彼女と店主には一人分の距離を置いかれている。

「うああ、っとはい、あの、ええ、ありがとうございます。とても参考になりました。ええっとう、そうそう玉ねぎをみじん切りにするんだった。うんうん」

 館山リルカの取り繕いを受け流した店主はまな板に視線を固定させ動きを止めると、夢の話のようにも思えてたお客の目撃談を巻き戻し、再生した。