コンテナガレージ

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がちがち、バラバラ 5-2

 警察の現場検証と証拠採取により封鎖された店は陸の孤島と化してしまった。手を打たなければ。店主は、ぼんやり外の様子を眺める外面を従業員には見せておいて、状況の打開を目指す手法をめぐらせた。
 片方の目を開ける。外を見て、雨の有無を確認。外に出て天を仰ぐ。ちょうど、インド舞踊を舞っている姿である。いよいよ店主がおかしくなった、と見下されれば店主はウキウキと高揚感が沸き立つ。
 雨の中、進入禁止区間を出た。雨のように降り始めを教える予兆を飛び越えて、天命が下る、黄色いテープの前で料理をこちらから歩行者に販売を促してはどうだろうか。店舗の欠点はその場所でしか食べられない、当たり前の事実であるけれども、たった数メートルの距離の店舗外の販売は初の試みである。調理済みの食材を不意に廃棄処分してしまうには、経営的には大幅なマイナス。お客は入れないのだ。いいや、無理を言えば、警官に付き添われて入店は可能。しかし、昼食の代用はいくらでも変わり手は手招きでお客を匂いで視覚で記憶で誘う。過去に携帯用の容器は格安で仕入れていた。後は、箸だ。店では割り箸を使用していない。
「小川さん、買い物を頼むよ」雨に濡れた店主は戻るなり、要求した。
「夜の食材の買出しか何かですか。それだったら休憩のときに行きますよ」今は手が離せない、暇といったのは館山の仕事を手伝う前の話だと言わんばかりである。
「割り箸を百膳買ってきて」
 生返事。「はあ、はい」小川安佐の口は閉じきらずに、空間を空けたままである。「あのう、お言葉ですけど、店には箸は必要ないと思うんですが」
「後、鶏肉はフライパンで皮目を焼くように。オーブンから出してくれ」
「店長?お客さんはいませんけど……」冷蔵庫の前、とまどう館山が無意味な店主のとっぴな発言を追いきれないでいる。小川の横から顔を出して店主にきいた。
「今日のランチをケータリングで売ろうと思う。立ち入り禁止区域外、テープのところで売るんだ。人も集まっているだろう?黙っていても人が止まる場所だった売れる」両手を腰に、満面の笑み。普段笑わない店主の笑顔は従業員には不気味な印象を与えたが、店主の拍手によって意思を察した従業員は言われるまでもなく、作業に取り掛かった。小川は約五分の外出で割り箸を届けた。