「すると、この子は男なのですか?」目を丸くした仕儀が写真を注視、そのまま高い声で言った。
「いいえ、女の子です」
「どういった趣旨の質問ですか、これは?」
背筋を伸ばした姿勢で種田が言う。「あなたから虚偽を示す兆候は見られませんでした。写真を見たときの反応は思い出す仕草、左上を見ていた。簡易に捏造か回想かを見極めたかったのです」
「それは演技かもしれません」時間をとられているのだ、仕儀は多少、意地悪にきいた。
「ありえませんね。あなたは、左が利き目。思い出し見上げてまた写真に目を落とすまでに、すべて左目に重きを置いた。不安定な場所、状況、環境下では多くの物事を見極めるために視野を広げる傾向にある。それをあなたは行わなかったのはつまりは、精神が安定していた証拠。突然の予期しない質問にただ答えのですよ。さらにあらかじめの対処ならば、こちらから質問があるまでは大体は黙っていますが、あなたは積極的にこの写真の人物の情報を集めようとした、見落としがないかどうか」
「……刑事さんって無口なイメージがありましたけど、……意外と饒舌なんですね」
「必要のないことは話しません」種田がコーヒーを飲む。「亡くなる直前の姿をもう一度詳細に思い出してください。いくつか情報が異なっているので」
「似たような格好をした人物を同じ時間帯にも目撃したとの情報が寄せられましてね」熊田が言った。
膝をそろえ斜めに流す仕儀は答える。「格好はそうですね、緑のコートと黒傘にその傘が赤く染まっていたことと、後は靴、靴はヒョウ柄でしたね」
「間違いありませんか?」ぐっと種田の顔がテーブルを追い越し、近接。
「そういわれると自信がありません」顔が遠のかないので、思いついた質問をぶつける。「……あの、死体は水鉄砲を持っていましたか?」
「いいえ、死体の所持品には含まれていません。持っていたのですか?」さらに今度は種田の右手はテーブルに、体重を支え、いっそう此方に寄る。
「それで、窓を汚したんです。どこかで捨てたのかしら、持っていたんですよ……」
それまでの刑事たちとの会話は飛び込みのお客で中断された。刑事たちは仕儀がお客を案内し終えたら、ドアの前に移動していて、逃げるように帰っていった。テーブルには残されたコーヒーと一枚の名刺。仕儀は名前を確認して数瞬時を止め、名刺をポケットに押し込み、コーヒーカップを台所に片付けて仕事に取り掛かった。