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がちがち、バラバラ 9-1

「警察が追ってくる。本当に、大丈夫なんだろうな?」三神は隣の女性に訴えた。席を立った警察が見えなくなると、隣の女性から連絡が入ったのだった。彼女は仕事上の取引相手でここまで私を送った人物でもある。美術館では危機一髪で追っ手から逃れられた。彼女のおかげ。だが、信用性には欠けた。私と彼女の関係性は小説のネタで保たれてる。それ以上でも以下でもなく、彼女ならば簡単に私を切り捨て、別の作家にネタの提供することも厭わない。これまで何度か接する機会で感じ取った彼女の印象は実に怪奇極まりない。気配が冷たく、そこいるはずなのに、笑っているのに、体温が放熱されていない。三神はかばんを胸に抱えてそっと隣の女性を盗み見た。

「計算のうち。この車も盗難車ではないし、所有者もきちんとした身分と職業。その人が警察関係者であったら、彼らは捜査続けるかしら?」

「内部にも仲間がいるのか。ふん、抜け目がない」

「あなたに小説を書かせたがったのは、警察のほうよ」

「警察が?探偵や刑事が派手に活躍する内容とは程遠いけれど」

「特定の思想を植えつけるには、カモフラージュが必要なの。表向きは娯楽小説で読者の中からあなたの本を手に取る人に絞り、さらにそこから単なるシリーズモノの続編に期待を膨らませて端的に読み込む読者と、背後に流れる共通した思想を読み解いてくれる読者とに選別され、特定の特殊な層に警察の要望を深層心理に落とし込む。人は勝手に周囲に流布、布教を行ってくれる。私たちの両手は開きっぱなしで十分」

「小説に思想を書いた覚えはない」

「そうね、あなたは出版された単行本なり文庫本の製品を改めて読みかえしてみたのかしら?最終チェックで止まっていない?」女性の口が歪につりあがる。

「……改ざんしたのか?」作品に対する愛情と言うものは私にはあってないようなものだ。現に人から提供されたネタで作品作りを曲がりなりにも続けてる。苦心した一文節も存在してはいたが、本来の生み出す生みの苦しみには比較対照にもならない労力。割り切って作り上げたのに、傲慢さを覆ってまでかすかなプライドが地面から角を出していた。三神にとって怒りは意外な反応である。

「文章の邪魔にならないような配慮は心がけた。単語を変換して挿入させたの。ごめんなさいね」悪びれる様子は一切ない、細すぎる髪の毛の効果でさらに幼く感じる。三神は追いかける警察の車が気になり、首を後部に向けた。一台をはさんでショッピングモールの駐車場、道路へ合流する車の流れを見計らう待機時間で見かけた黒の乗用車が追いかけている。見つかることを恐れる追跡ではない。

「どこへ向かっている?まだ仕事が残ってるんだ」

「待って。しばらく、ドライブを楽しんでくれないと困る。後ろの二人を事件現場からなるべく遠ざけているんだから」

「私に持ちかけた偽証が確実に絡んでいるなぁ」あきらめた物言いで三神は後頭部で両手を組んだ。右手の指がキーボードの叩きすぎで筋肉が硬直、一本ずつ伸ばしたり、五本全部で左手を包んで離すといったストレッチを何気に行った。

「良きところで降りてもらう」