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水中では動きが鈍る 2-4

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「熊田さんはよく犯罪者の心理が読めますね。僕なんかはてんでダメですよ」鈴木はフルフルと首を細かくふった。その言い方や行動から擁護を望む心のうちが滲む。
「お前はたんに頭のネジが何本か抜けているだけだろうが」
「いまどきネジが抜けているなんて言われても、若者は理解できませんよ。子供の遊び道具もネジ一本で不具合が解消するようなアナログな商品なんて、もうありませんから」
「お前に通じるのならそれでいいんだよ」
 種田の携帯が震えだした。ディスプレイには見覚えのないナンバー。
「はい、種田です」
「お前たち、勝手に動くな!あいつにバレたらどうするつもりだ。さっさと尾行を止めろ!」一旦携帯を耳から離しボタンを押してまた耳に当てた。
「失礼ですがどちら様でしょうか?」種田が馬鹿丁寧な物言いで返答した。
「お前っ、私だ。管理監だ。まったくっ。いいから早く、車を止めろ。尾行は別班に任せるんだ」
「私達はただ事件の終わりを見届けたいだけです。こちらで犯人を捕まえようなんて大それた考えなどはもっていませんので、どうか安心してください」
「聞こえなかったのか?これは命令だ。即刻捜査から身を引くんだ。聞こえてんだろう、熊田。また単独捜査か、いいか、お前が要る組織はなあ、警察だ。社会なんだよ、お前の独断で事件解決したからって二度も三度もうまく事が運ぶと思ったら大間違いだ。お前のわがままでな、指揮系統が乱れるんだよ。いいか。よーく聞け。即刻、車を止めろ。いいな、お前が絡むと大成功か大惨事にしかならん。わかったなぁ!」ブツリと電話が切れた。なんて事のない会話なら通話の切断音に感情を動かされないのに、罵声のあとにはどうしてもその音に苛立ちを込めて聞いてしまう。途中から携帯を耳から遠ざけて話を聞いていた種田でも耳にはまだ音の名残り。
「なんです、あれ!僕達まだ何もしていないじゃないですか」鈴木の怒りに反応せず、熊田は黙んまりを決め込む。