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水中では動きが鈍る 3-7

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「そうだな。話したというか、報告だよ。警官がエンジンオイルを捨てた映像を上層部に上げなかったもっともらしい訳を言ってきただけ。お前が知りたい事件のその後については現在も状況に変化はない。休暇中の警官もまだ自宅には帰ってきていなしな」熊田が話したために鈴木は多少気が楽になり、言葉を返す。
「だったら、その警官たち二人共が犯人なんじゃないんですかね?これだと辻褄が合いますよ」
「どこの辻褄だよ?」唐突に推理に走った鈴木に相田が待ったをかける。議論には反対意見が必要不可欠であると自負している相田である。
「トンネル内で二人の警官が死体を遺棄した。もちろん、二人一組です。行動は共にしていますよ。それに、パトロールと称して見まわれば誰にも怪しまれない。トンネルを近隣住民や新聞郵便配達員が通過したであろう時間帯から佐田あさ美が遺体を発見するまでの時間には余裕を持って死体を置いて行けます」
「パトカーがあの細い道を通過したのなら、住民の誰かに目撃された可能性も浮上します」落ち着いた声で種田が鈴木に論理を指摘する。
「だったら自分たちの車を使ったんだ」
「ころころと意見が変わるな」相田が呆れて言った。
「死体の遺棄は二人が共謀したとして説明がつきますけど、片方の遅れてきた警官の現場までの移動方法をどう説明するのでしょうか?」未だに明かされていない部分が警官の移動方法であった。
 「あの辺りはちょうど、山と海の境目。陸路がダメなら海路でしょう」
 「ふーん、ボートか。それは少し見込みがありそうだな。ただ、遅れてきた訳や、船、ボートに乗っていきたからといってそれが事件の犯人であるとの証拠には結びつかないと思う」
 どうも捜査や注目すべき点がそもそも見当はずれではないのか。
 鈴木の声が消える。
 集中すると頻繁に出くわす光景。
 音速のような時空を超えた時の流れ。
 あの喫茶店での思いつきと同質の感触であった。しかし、繋がった糸は細くすぐに断裂してしまう。起き抜けに夜中に起きた時に見ていた夢の続きを思い出そうとして思い出せないようだ。断片画像のつなぎ合わせの辻褄合わせ。
「ちょっと出てくる」熊田の座る椅子はデスクから飛び出た状態である。スタスタと一言皆に告げた部屋を後にした。鈴木と相田は互いに熊田への対応の是非を言い合い、怒らせたのはどちらかという議論に移行していた。
 種田が音もなく直立の姿勢。「私もちょっと出てきます」彼女もそう言い残していってしまう。事件の指揮権は本部が現在は握っていて熊田の班は事実上、事件からは手を引いていた。つまりは、何もすることがないのである。単に次の事件までの儚い休暇ではあるが、いかんせんクライマックスだと踏んだ場面で横から捜査の主導を本部、特に管理監に握られてしまったので4人からは緊急事態でも起きない内は、抜け殻のように過ごすだろう。無論、熊田もそして冷徹な感情のない種田であっても、しばらくは放心状態である。鈴木と相田は空いた溝を埋めるように忙しくはしゃいでいるだけで、一旦静寂が訪れると抱えた闇に取り込まれそうになる。