「こんにちは」鈴木はとっさに挨拶をする。
「こんにちは」流れるような動作、首の稼動も気持ち程度斜めに傾く。白い顔には茶色の瞳が綺麗に笑う。鈴木は見惚れてしまっているが、美弥都は構わず、取り合うことなく、脇を通過、カウンターに入り、蝶番で折りたたんだ板を戻し遮断した。
熊田の携帯が胸ポケットで振動、ディスプレイを見つめ顔が歪み、ため息。
「はい」
「どこにいる?」管理官の怒りを押さえつけた声である。
「喫茶店です。なにか?」
「どうしてこうなった?」
「なんのことでしょう?」
「とぼけるな。鈴木と相田の所在は?」
「目の前にいますけど、二人がなにか?」
「そこを動くな。こちらの監視下に二人を置かせる」
「どういった御用向きで?」
「お前たちが手におえる案件ではない。いいから手を引け」いつもの命令口調より少しニュアンスが柔らかく、棘がない。
「我々の事件です」
「命が代償でもか?」
「部長は今どちらに?」
「……少しは情報を掴んでいるようだな。あいつの居所はこちらが知りたいぐらいだ。電源を切りやがって、肝心な時に行方をくらます!……これはもう上層部が受け持つ案件に会議で決定した。いいか、私の権限ではない、さらに上のお偉い方の意向だ。逆らうのは得策ではない」
「心配をしてくれるのですか」
「あいつには関わるな」
「我々からは何も、一方的に部長が指示を送るのです」
「とにかく、二人は監視下に置く。人命が第一だ。おまえも署でおとなくしていろ。命令だ。従え。反論は認めない」
電話が切れた。