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水中では動きが鈍る 3-3

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 血液が凶器に付着していれば殺害に使用されたと断定されるが、警官の部屋から見つかっただけであって当日の警官のアリバイはまだ正確には照合されていないのが現状である。つまり、何者かがもしも凶器を警官の部屋に忍ばせておくことができれば疑いのかかっていた彼が犯人と確定の烙印を押される。
 時を同じく、エンジンオイルを巻いた可能性のあるもう一人の警官にも捜査の手が伸びていた。彼は今日、非番である。休みを利用して仕事終わりの昨夜から家を空けていたことは張り込みの捜査員から上層部は報告を受けていたようである。熊田が撮った映像が神から上層部に持ち込まれ警官の自宅捜索せよとの命が下っていたが、夕方の今になっても熊田たちの耳及びその他別班の捜査員たち、上層部にすら芳しい報告はもたらされていなかった。
「熊田さん、上が呼んでいます。会議室です」鈴木が神妙な表情で熊田を呼びきた。おそらくは、重大な証拠映像の提出遅滞が呼び出しの内容だろう。タバコを灰皿に押し付けて鈴木とともに喫煙室を出た。数人から好奇の眼差し。その時の顔を映像で収めそれぞれに見せれあげたいぐらいに引きつった顔であった。見ていることに重きをおいて見られているの忘れているからだ。
「例の警官は連続殺人の犯人なんでしょうか?どうも僕には納得できなくて」数歩前を行く鈴木が独り言のように話しかけてくる。熊田は床に視線を落として歩みを進めている。
「あいつが犯人ではないと思う明確は理由でもあるのか?」
「いやあ、明確と聞かれると自信はありませんけど聞いた話によると聴取では、ネット番組の録画に間に合わせるために急いだって、そんな奴が連続して人を殺しますかね?」首をひねる鈴木に対して興味なさげに熊田が聞く。
「何が言いたい?」
「鬱積していた自分を解放するために殺人を行ったのなら、楽しみである番組のことなんて忘れているはずですよ。どうみたって殺人のほうが圧倒的な非日常ですからね」振り返り、廊下、ドアの前で鈴木はさらりと己の考えを述べた。
 会議室のドアを鈴木が押し開ける。鈴木は中に入らないらしい、連れてくるようにとの命令だけだったのだろう。だったら、それを鈴木に伝えた者が呼びに来ればと熊田は内心で思う。