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ゆるゆる、ホロホロ4-8

 

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あんまり大きな声じゃいえないのですが、僕って結構有名な小説を書いてまして、ええ、タイトルとペンネームは言ってしまうとパニックですから。わかってください。最初に自慢話をしたかったわけではないのです、これからのストーリーには必要な情報なので。一部のメディアが取り上げてる通りの事件に僕の書いた小説が似ているらしくて、けれど細かな点はちょっとずつ違っている。僕は、小説を書くにあたって、書き直す以前バージョンも保存していてね、一話分を書き上げるあいだに五、六回は更新をする。話の方向転換、変換した言葉、削除した文節、自分の癖を知る上では何よりの宝物さ。本編とは少し事件は違う、書き直しのどれかが小説が模倣されたバージョンなのだけれど、この内容はごく限られた人しか読ませていない。僕以外では二人かな。まあ、その二人が誰か周りの人に見せた可能性もうん、ないことはないよ。でも、見せないって事が暗黙の了解。だってそこからアイディアが漏れてしまえば、結局は自分たちの首を絞めることにもなりかねない。しかし、二件目の事件は起こった。現実では、殺されたのは少女、初期のバージョンでは少年。物語の内容に、より適した選択を書き直しで自分は性別を変えたらしいけど、よく覚えていなくて、ただ読み返していくうちに複線が性別に絡んでいることを思い出したんだ。ネタバレになるからあまり教えはないんだけど、だってまだ読んでいないだろう?貴重な読者を失いたくはない。小説家はみんなよくしゃべるのかって?しゃべらないから文章を書いて、思想なり言いたい事なりを世間に公表し跳ね返りの具合を計る、大半の人はそのエリアに属するね。僕はとにかく作家業を軌道に乗せる書き方だから、高尚な精神や身を殺して削ってまで文章を搾り出すタイプじゃないかなぁ、はじめから。文章も稚拙、語彙力も限られてる、だが、それでも物語には引き込める。秘訣?教えられないよ、秘密。事件の話に戻そうか。今日、事件を目撃した店で変わった人が目に止まったんだ。奇抜な赤は誰かに褒められたくて見せ付けるような人が選ばない服だった。パーティーのドレスは許されるのに日常では周りの人はひいて見ちゃうんだね。会場まで行く途中かもしれないのに。普遍性が足りないから目立ち、特定の場所で威力を発揮するのか。うん。ああっと、また話しが逸れた。その人は二階から見下ろす僕を見つけて、カフェには入ってきた。視線の交錯は僕への用事とは受け取れない、そう思っていたら、すっととなりに現れて向かいの椅子をその人は望んだ。ドレスを着ているからって女性とは思わないでくれよ。いいや、女性さ。見るからに明らかに。席は十分に空いていた、隣の席に一人だけだもん。あとは座り放題、移り放題、選び放題さ。首をかしげて、尋ねてみた。恐る恐るね。だってちょっとねえ、不審でしょう。声は多少かすれていたけど、声を日ごろから使っている人と知れた。小説のネタはいつも思いつきで先はあまり決めない方針だから、ネタを書き留めたりストックしたりはしないけれど、眼前の人はどこかで使えるって判断を下して、これまでのルールを破ったんだ。わかっているようにその人とは初めて会った。コーヒーが届くとその人は今日の今の気分を語りだした。キーボードの手は止めたよ、だって面白そうだから。向こうからやってくることは早々生きていて出くわさないと思う。今日はレンタカーで久方ぶりに運転したんだって。難しい、無理だ、できない、危ない、思っていたのは自分だけらしい、走り出しは緊張したけれど慣れればなんてことない。スムーズに動くし、速度も自由自在。どこへでもいけてしまう錯覚が傲慢さを高めるのね。渋滞とかゆっくり渡る歩行者とか、道路にはみ出す自転車とかに悪態をついて、そうまでしなくても邪魔だって奥底では思っていて、でも同乗者に悟られないように言葉にはあえて出さなくて。私が車に乗らなかった理由はここにあるの。一旦乗ったら、意識をトラレソウデ。皆さんはよく戻って来れますね、迷わないように紐を握って帰りはそれを辿って帰るのかしら。私はね、一度踏み出したら後戻りはできない性質なの、面倒くさいわ、ええ、重々承知。これが私。昔を覚えているのってそんなに大切かしら、振り返るのは踏み出す前にしっかり足元を確かめていないからでしょう。だったらねえ、事前の準備がバッチリだったら、ほら、ねえ、私の意見もまんざらでもないってこと。今日は人と会うの。懐かしい人。面白そうな人。たぶん会えば楽しくなると思える人。愛しているって?さあ、気持ちは確かめられないし、それを愛と呼べるのかどうかも。憎悪も愛情のひとつにくくるんだったら、どれも愛情かもしれないわ。あなたの指標を教えてくれないと。雑誌のインタビューアーはもっと手の内を見せるべきなのよ、私という人間はこんな位置から世界を見ていますって。その人はそうね、多面的な表情を持っている。誰にでもなれてしまえるの。不可能?そう思い込んでるのよ。誰にだって可能性は無限大、取り組まないのは見限ってる証拠。その子は広がり続ける。求める方角に。月が見えなくても雲に隠れていたとしても消えてしまったわけではない、なのにあるってどうして信じられるの?明るいから、光が雲からこぼれているから、いいえ、明るいときを知っているからよ。見させられたのでも必死に眺めたのでもない、見えたから、だから届きそうだと手に入るとそこに浮かんでいるんだって思えたの。今日を生きているのはどうしてと問いを立てて過ごしたことはないかしら。永遠に続くわけでもないのに、信じている身の回りの取り巻きたちは、見えているの、目を凝らしているの、見てみないふり、見飽きたの、それとも見つめすぎて近すぎてぼんやり輪郭があいまいなのかな。あの子は、すべてに応えてくれる。会っただけで。でもそれも今日で終わってしまうわ。明日がとてもはっきりとくっきり私の脳裏には浮かんでいるもの。楽しいさはいつも短い、それがいつまでも覆らない定説。あっという間。コーヒーおいしわね、味わってる?この場所が好きなのか。ふーん。目が合ったのは偶然だと思う、それとも必然?この場所が好きだったことは習慣的に通っているわけで、調べたらもしかすると私はその事実を知れたかも。偶然を装った登場もありえなくもない。

 なにが言いたいかって、その女性はいたって普通で僕たちと表面的な態度は共通していた。また、以外にもカップの縁に口紅はついていなかった。あれだけ赤いんだから口紅もって思い込んでいたのさ。ミスリードとは違うけれど、ニュアンスは近いかも。その人が立ち去って、ついさっき家電量販店の売り物のテレビでその女性が映っていたよ、車に乗せられて。驚いたね。だって、そういう犯罪者のことは書いても実際に出会わないからね。これおいしい。隠し味はなにかな。直接店長に聞いたらたぶんの教えてくれるって?店の味だよ?君にも作れるの?難しい工程はあえて行わないのか、隙間産業だね。小難しい文書を好む人もいれば、ライトなものを好きだって言う人もいる。どちらも、ずっと同じ場所には居ないけれど、滞在期間のときだけは楽しませてあげないと、そういった人たちに向けて書いているんだ。わざと、故意に、好みに合わせて、食べやすいように切り分けてる。