コンテナガレージ

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空気には粘りがある1-5

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「斜面から落とされてこの場所へ転がってきたとは考えられませんか?」種田の視線はさわさわとうごめく得体の知れない自然を捉えている。

「ぱっと見たところ、死体には土や葉や草木の類は地面に接していた体の前面にしか付着していない。上から落ちてきたとしても木に引っかかる」実験で試したわけではないがおそらくは人がスムーズに落ちてくる可能性はほとんどゼロに等しいだろう。

「鈴木、仕事」

「あっ、はい。じゃあいってきます」2人の会話に聞き入っていた鈴木は我に返るとちょこんと熊田に頭を下げて小走りで去っていった。

「では、私も捜索に参加します。熊田さんは?」聞き忘れていた質問を再び種田は繰り返した。

「ここに死体があった理由を考えてみるよ」

「煙草吸われないんですね」日にひと箱を吸う熊田にしてみれば種田の計算だと忙しいときでも一時間に一本は吸っているが現場ではその姿をまだみてはいなかった。「忘れたんですか?」

「ああ……。たぶん車にあると思う」

「鈴木さんからもらってきましょうか?」 

「どうして違う銘柄の煙草はおいしくないのだろうかって思うんだ」熊田は唐突につぶやいた。熊田と鈴木の煙草の銘柄は異なる。

「ええ、ありますね。しかし、ストレスの発散が目的なら、肺に入ってしまえば変わりないのでは?」

「そうだな」うまく丸め込まれて熊田は種田が後を追いかけて鈴木からもった煙草を一本もらい歩道まで移動してから火をつけた。煙草と一緒にライターと携帯の灰皿も渡される。まるで、子供への母親からのあなたのために用意した装備を安全のためになすがままに装着されているようである。