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空気には粘りがある1-4

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「鑑識の結果次第でここから捜査の方針が決まる。まあ、見たところ自殺の線は薄いが捨てきれないでいる。その程度の見解しかいえない。だから、先入観は捨ててむやみに動くのをやめにする。時間が時間なので朝にならないと情報は集まらないだろうし、それにだ、死体の身元を調べる必要も暇なうちに終えておきたいから、……鈴木に頼む」

「はい、わかりました」

「私は何を?」種田が髪を押さえているのはただ、正面の熊田が見えずらいからである。彼女には化粧や、見栄えと言ったこの年代の女性が併せ持つ道徳があてはまらないのだ。取り立ててしっかりとメイクを施していないにも関わらず肌の荒れやくすみなどが見当たらないのが周囲の女性たちから反感を買っているようだといつか署内の喫煙室で聞いた覚えがある。

「現場から何か証拠、あるいはそれに繋がる物証の捜索」

「熊田さんは何を?」

「被害者はどうやってここへ来たのだろう」

「なんです、いきなり」

「うん。不思議だとは思わないか。財布もないし携帯も持っていない、もちろん誰かに殺害されたのなら身元の判明を遅らせるための行動だと理解できるが、しかし、そう考えるとここへ死体を遺棄したことに矛盾が生じる。隠したいのなら、もっと別のそれも見つかりにくい場所があるだろうに」死体の所持品はいまのところ発見されておらず目下周囲、現場から約半径200メートル付近を捜索している。これらは鑑識の担当と種田の仕事。熊田は暗闇を見渡した。街灯で見える範囲には道路右手下に広がる闇と、左手の斜面に生えた茶色の木々。