「ずいぶんとまともな答えが言えたな」
「そうですかねえ、」
「お前が言う信憑性のある証言の裏はとれたのか?」
「はい、その店に言って店員に顔写真を見せましたが、目撃された正確な日時があいまいなので覚えているものはいませんでした。彼女が訪れたのは最近ではないのかもしれません」
「……お前の見解は?」
「そうですね、判断が難しいです。けれど、確かなのは被害者から得られる情報は、犯人には結びつかないと思います」
「結論付けた理由は?」
「怨恨ではないとすると、通り魔のような無差別殺人と類似します。つまり、被害者に狙われるような要素するは存在しない」
「分かった。次は、被害者の母親の落ち着きを待って話を聞いて欲しい」
「了解しました。あの、それまではなにをすれば……」
「こっちと合流してもらう。そろそろ上の連中も動く頃だからな」
「そちらの捜査はどうです?」
「どうもこうもない。また、証拠は見つからずじまいだ」
「またあの人に聞いてみたらどうですか?」
「一般人だぞ」
「分かってますが、背に腹はかえられないでしょう」
「いまどき腹なんて守っている奴なんていない」
「それだけ差し迫っているってことですよ」
「コーヒーはうまいんだけどな」
「いいじゃないですか、うまくて」
「いいから、とりあえず戻って来い」
「はい」
「男性なのにおしゃべりなんですね、お2人は」電話を切ると隣で聞いていた種田がすかさず切り込んできた。
「女性だからしゃべって当然のように聞こえるが」
「失礼しました」
「警察が簡単に謝るな」
「間違ったのですから、当たり前です」
「当たり前か」
「おま、種田、いつかは謝れなくなるぞ」
「私が間違えを起こさなくなると言うことでしょうか?」
「いいや。立場が伴えば雁字搦めで体が固まってしまうのさ」
「それは、守る対象が自分から立場または役職に移行しただけです。守るべき常に私です」
「その、だけ、が意外と厄介なんだ」
「理解できません。どこに違いがありますか。私であることに何の変化ももたらしませんが」
「変わっているな」
「比べなければ、唯一でいられます」
「しかし、比較がないと自分を保てない」
「すべて捨ててしまえば、残るのは自分だけです。また、それがすべてともなる」
空が淡いピンクを雲たちに塗りたくり、日が落ちる。
基準は私。
殺人にもあてはまるだろうか。
人を殺して自身の存在を確認する。そして、また不安になり次の殺人。繰り返しても満たされない欲は、渇望を生むだけ。人を介しての投影なのだから確認行為は私が居ないといっているのと同一。脱ぎ去っていない。かろうじて脱皮のかけらを大事そうに抱える。
2人の影が長く伸びる。汗の引いた体に冷たい夜風。車内で鈴木の到着を待つが、冷えた体をすぐに温めたかったので急遽車を走らせた。鈴木には種田がメールで到着場所の変更を送信した。