コンテナガレージ

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摩擦係数と荷重5-7

f:id:container39:20200509131858j:plain じっと建物の外観を凝視していると、窓が叩かれる。種田は窓を5センチほど開けた。
「ここで何をしてるのです?」声をかけてきたのは制服警官であった。交番は目と鼻の先にある、見回りの途中かもしくは近くを通りかかった近隣住民が怪しさ満載のこの車を交番に伝えにでもいったのであろう。
「この建物を見ていました」種田は澄まして答える。自分が刑事だとは名乗らない。
「こんな時間に?ちょっと出てきてもらえます?」横柄に身体検査を促すようだが、種田はきっぱりと言い放つ。
「どのような理由で外へ出るのでしょうか?」
「こんな時間に車の中で外をじっと見ていたら誰だって変だと思うでしょう?」警官の横柄で横暴な態度に種田は拒否の態度をみせる。
「それは私が外へ出る理由にはなっていませんね」
「何かあってからでは遅いから事前に協力を頂いているんです市民の皆様に」
「やましいことは何もしていません。車の中から建物を見ていただけです」
「やましいことがないというなら、外へ出てきてもらっても構わないですよね?」一辺倒で同じ文言の繰り返し。
「いいえ、無理です。これから人と会う約束があるので」
「すぐに済みますから、お願いしますよ」
「嫌です」
「いいから出なさいって!」語気が強まる。
「出ていく義務はありません」種田もきっぱりと断る。
「どうした?」熊田が買い物から戻ってきた。もちろん口にはタバコが咥えられている。振り返った警官を見て熊田の眉間にシワが寄る。「事件か?」
「事件?そんなんじゃないですよ、この人がね車の中からじっと外を見ていたから不審に思って声をかけたんです。あなたこの人のお知り合い?」困った顔で種田があたかも悪者だといたげな警官の口ぶり。中立な立場、あるいは当事者ではない熊田に冷静な判断を仰いでいるのだろう。警官というアドバンテージをもって。
「知り合いですし、これは私の車です」
「そう。それで、ここで何をしているの?」
「人を待っています」
「車の中で?」
「ええ、まあ」
「真っ暗な中で待ち合わせっているのはおかしいよ」
「あの、おまわりさんは何にそんなに引っかかっているのです?」
「いやね、この人にね、外に出てくれと頼んでもさ、出てきてくれないんだよ」
「外に出して何をするつもりですか?」
「危ないもん持っていないか確かめるためさ」
「持っていませんよ」
「どうしてわかるんだい?まさか何か本当に隠しているんじゃないだろね」
「はあ。私、こういうものです」頭の悪い警官にすぐさま立ち去ってもらうためにポケットから手帳を取り出した。
「ええ、警察。警察っう!?これは、その、あの、失礼しました。するとこちらの方も」警官は慌てて窓からのぞくしびれるような視線を恐る恐る受け止める。彼の動きが停止するとハングしてからは、取り繕うように再起動前からの横柄な態度はなりをひめる。
「刑事です」
「ですよねー」と、機嫌を取るために高い声で話すようになった。
ため息の後に熊田が警官へ最後通告。「誰にもいったりしないからもう戻ってくれ」
「はいあの、本当にその、出来心といいます、すいませんでした。あの、黙ってていただけると」両手をひっつけて神でも仏でもない熊田に祈る。
「あんたのことなんかいちいち報告なんてしないよ、いいからサッサッともちばにもどれ」
「すませんでした」何度も頭を下げて警官はいそいそとその場を去る。一般市民が警察に対して不躾な態度をとるのは警察の側にもいくつか問題点がありそうだと、警官の後ろ姿を見つめて熊田は思う。