コンテナガレージ

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重いと外に引っ張られる 1-12

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「……そうですか。この場に残ってたのは別のアプローチから現場と事件を確認するためです」細めた目を熊田にぶつける。解凍直後は一段と機械的な話し方である。
「事件じゃないっていうのかい?」
「いいえ。事件ですがすでに私達が接見した事象はもしかした見せられた景色であった可能性が示唆されます」
「そうだ。我々が現場に到着するまでには約30分の時間が存在していた。まずは遺体を発見した彼女が通報、続いて制服警官の到着、次に鈴木と我々、最後に本部からの鑑識」
「いつもと変わりないですよ。むしろいつもよりは私達の到着が早かったくらいですから」
「……遺体はいつ放置されたのでしょうか。現場には争った形跡も見当たりませんでしたし、銃や刃物、鈍器による出血も皮膚表面
 黒い液体のために確認できていません。そうすると、殺され方としては絞殺や窒息などの方法が浮上します。が、それは鑑識の役目ですからここでもう一度しかも死体のない現場に居座るのは、何か目標となるこの事件への引き綱を握り締めているからでしょう」腰に手を当て今度は嘘を問い詰める母親の態度で種田の威圧が高まる。しかし、熊田はそれをふわりと風に流してしまい、呼びかけられた名前に答えるようそっぽを向いた側面をキリッと種田に正す。種田の口ぶりは、まるで大学教授が悦に入りながらも先人たちの考えや思考、それに至るプロセスを講釈するさま、そのものである。
 差し出された手によって熊田が答える。どこかの舞台上で展開される演劇の一幕。「……この道は一通ではない。それにこのトンネル、高さの制限がある。ざっとみても3メートル弱ぐらいだろう。一般的な乗用車ならなんの不自由もないだろうが、ワゴン車から先は不通過となると、近隣民家が所有する車の高さを見ればどの程度の時間からこのトンネルが通行されていないかに最大値がわかる。つまり、平日の早朝の新聞配達と郵便配達のバイクの通過時間から通報までの時がぽっかりと空く。住民かその間に車を使用していなと仮定してだ」
「トイレを借りた時に民家の所有状況も尋ねていたのですか?」
「……ああ、一軒で聞ければ芋づる式に近所の車の大きさや所有の有無も教えてくれたよ。おしゃべりなご婦人はこんな時には役に立つよ」微笑を浮かべて熊田が続ける。「いま立っているトンネルのこちら側には早朝から通報までにトンネルを通過した車はないそうだ」
「じゃあ次は向こう側ですね」
「そうだ。ちょっと待て、タバコを忘れた」熊田は急ぐ様子もなく、サイドボードに入れたタバコとライター取りに行く。「完全に中毒ですね」種田の冷たい視線が注がれる。