コンテナガレージ

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重いと外に引っ張られる 3-5

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「会社に知れたら自分が取材の対象者になりかねないし、再び妹にもつらい思いをさせるかもしれない、だからまたま現場を訪れたと嘘をついた。そうですね?」佐田あさ美は静かに首を縦に振る。「あなたの会社ではゴシップ誌のような雑誌も扱っているのですか?」種田は世間に疎い、まして芸能や巷のニュースには一切関心がない、否持てないのだ。
「雑誌に載せるのだけは避けたかった……。もちろん事実を伝えることが使命ではありますよ、私達の仕事は。でも、こと自分に降りかかるとなると簡単に切って捨てたりはできないのです。それに、家族にも被害が及ぶ」
「記事を書くとはそれ自体に人を傷つける道具となっている。まあ、その感覚も麻痺しないと書けないのかもしれない。とても不誠実ですね。汚いとまでは言いませんが、不快です」
「種田!言い過ぎだぞ」
「事実を伝えて何が悪いでしょうか。彼女には明確に悪いと、意思に表示がありました。だから追い打ちをかけたのです。自分の仕事の重さを自らで体験しておきながらもいつかその中に取り込まれていた」
「そのとおりです」
「もういいだろう、それぐらいにしておけ。申し訳ありません、こいつ世間の常識がわかっていないので」まっすぐに正面の佐田あさ美を凝視する種田。佐田は、その視線から目をそらしてギュッと握られた手元を見つめる。そこが安全地帯のようだ。
「……私がいけないんです。悪いのは私です。結局はね、自分がいちばんなんですよ。妹のためとか言っても所詮は職を追われる不安が最大の関心ごとなんです。いやらしいでしょう」
「ええ。でも、嘘をつくよりはマシです」どれだけ厳しい表情をしているのかと、種田を見てみるが想像とはかけ離れた幼い頃に捨ててきた自分の真っ正直さが浮かんでいた。
「正直ですね、刑事さんは」目頭に涙がにじむ、視界がゆらぎ、ぼやける。
「種田です」
「面白い人」真面目さは緊張度合いでは笑いに変わる。無理やり笑いとろとするから面白くないのだ。面白さとは、きっかけと対面する事象との違いでしかない。
 
 本部に問い合わせたところ、10年前に佐田あさ美の父親、佐田治郎が起こした殺人事件が確認された。祭りでの喧嘩に巻き込まれた際に、相手方が持っていたナイフがもみ合いで腹部に刺さり父親の正当防衛が主張されたが亡くなった青年の両親が多額の資金をバックに弁護団を組織したために裁判は相手側が有利に進め、結局正当防衛は認められずに刑に服することとなった。その後の顛末は想像するようにマスコミからの取材攻勢、言われのないバッシング、いじめ、各種それに準ずる痛い視線を浴び続けたようだ。父親はまだ収監されているようで、刑期を終えるのはおそらく死期と同時期だろう。次に怪しい行動の警察官の所在及び、彼の現在までの簡単な履歴について調べてもらうと、その警官はO市Z町、国道沿いの交番勤務、今日も出勤しているとのこと。履歴については、自動車の短大卒業と明記されていたそうだ。